個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、所得税や住民税に加えて「個人事業税」の納税通知書が届くことがあります。「また新しい税金が増えたのか」と驚く方も多いのではないでしょうか。
個人事業税は、事業を営む上で利用している道路や公共サービスなどの経費を分担するために課される都道府県税です。所得税とは異なり、一律で年間290万円の控除があるため、利益が一定額を超えたタイミングで初めて通知が届く仕組みになっています。
この記事では、個人事業税の計算方法や対象となる業種、経費として処理する際のポイントを初心者の方にもわかりやすく解説します。
目次
1.個人事業税とは
個人事業税とは、事業活動を通じて都道府県の公共サービスを利用していることへの対価として課される税金です。
たとえば、商品の配送で道路を使ったり、事務所でごみ処理サービスを利用したりと、事業運営には自治体が整備・管理する公共インフラが欠かせません。こうした公共サービスの維持費を、事業の利益から応分の負担をする目的で、事務所や事業所のある都道府県に納める仕組みになっています。事務所や事業所のある都道府県に納税し、自宅で働いている場合は自宅のある都道府県が納税先となります。
1-1.個人事業税とは、利益が安定したタイミングで発生する税金
個人事業税は、前年の事業所得をベースに、各都道府県が税額を計算する仕組みを採用しています。個人事業主が提出した所得税の確定申告書の情報が都道府県税事務所へ共有されるため、納税者自身が改めて計算や申告の手続きを行う必要はありません。
大きな特徴は、事業の利益が一定の水準を超えた場合にのみ課税される点です。具体的には、年間の事業所得から一律で差し引ける大きな控除枠が設けられており、小規模な段階では通知が届かないようになっています。事業が成長し、利益が安定し始めたタイミングで初めて発生する税金であると理解しておきましょう。
1-2.個人事業主と所得税・住民税との違い
所得税・住民税と個人事業税の主な違いは、「課税主体」「課税の対象」「経費計上の可否」です。
| 税金の種類 | 課税主体 | 課税の対象 | 経費計上 |
| 所得税 | 国(国税) | 個人の所得に対して課税 | 経費にできない |
| 住民税 | 市区町村・都道府県(地方税) | 個人の所得に対して課税 | 経費にできない |
| 個人事業税 | 都道府県(地方税) | 事業活動そのものに対して課税 | 経費にできる (租税公課として全額経費算入可能) |
例えば、2025年3月に2024年分の確定申告を行った場合、2025年8月と11月に個人事業税の納付書が届きます。この納付額は2025年分の経費として計上できます。
2.課税対象となる「法定70業種」一覧
個人事業税はすべての業種に課されるわけではなく、法律で定められた「法定70業種」に該当する場合のみ課税されます。現在、ほとんどの事業がこの70業種のいずれかに分類されますが、一部の業種は非課税です。
業種によって以下の区分に分かれ、それぞれ税率が異なります。フリーランスは第3種事業に該当することが多いです。

正確な納税額を算出するためにも、自分の事業がどの業種区分に該当するかを把握しておくことが重要です。
法定業種の詳細については下記ページをご確認ください。
3.個人事業税の計算方法
個人事業税の計算は、所得税の計算方法と似ていますが、独自の控除枠や税率が設定されている点が特徴です。正しい計算の流れを理解することで、納税額を事前に予測し、資金繰りの計画を立てやすくなります。
基本となる計算式は以下の通りです。
(前年の事業の総収入金額 - 前年度の必要経費 - 青色事業専従者給与額又は事業専従者控除額 - 各種控除 - 事業主控除)× 税率 = 税額
ここでは、納税額が決定するまでの工程を順番に解説します。
個人事業税の計算で使える控除は以下の通りです。
| 控除の種類 | 主な対象者・要件 | 控除額・範囲 |
| 事業主控除 | 個人事業税の課税対象となるすべての個人事業者 | 年間290万円を一律控除 |
| 青色事業専従者給与 | 青色申告で生計を一にする専従者に給与を支払っている場合 | 税務上適正と認められる実際の支給額 |
| 事業専従者控除(白色申告) | 白色申告で生計を一にする専従者がいる場合 | 配偶者86万円、それ以外は1人50万円まで |
| 損失の繰越控除(純損失) | 主に青色申告者で、事業所得に赤字が生じた場合 | 純損失を翌年以降の事業所得から最長3年間控除 |
| 被災事業用資産の損失の繰越控除 | 災害により事業用資産に損失が生じた場合(青色・白色いずれも対象) | 被災による損失額を翌年以降に繰越控除(通常3年、特定非常災害は5年) |
| 事業用資産の譲渡損失控除 | 車両・機械・器具備品など事業用資産を譲渡し損失が出た場合 | 当年分の事業所得からその譲渡損失額を控除 |
| 譲渡損失の繰越控除 | 主に青色申告者で、事業用資産の譲渡損失が生じた場合 | 譲渡損失のうち控除しきれない部分を翌年以降最長3年間繰越控除 |
3-1.STEP1:課税対象となる所得金額を算出する
まず、1年間の事業利益を算出します。個人事業税の計算において重要なのは、所得税の計算で差し引いた「青色申告特別控除(最大65万円)」を差し引く前の金額を基準にする点です。
具体的には、売上から必要経費(専従者給与等を含む)を差し引いた純粋な事業利益を確認します。決算書上の欄に記載されている数字が計算のスタート地点となります。
3-2.STEP2:一律290万円の事業主控除を差し引く
次に、算出された所得金額から、年間一律290万円の「事業主控除」を差し引きます。この控除は法定業種に該当する個人事業主であれば、青色申告・白色申告を問わず一律で適用されます。
つまり、青色申告特別控除を足し戻した後の事業所得が290万円以下であれば、個人事業税は課税されません。開業して1〜2年目は所得税の納税通知だけだったのに、3年目に突然通知が届くのは、所得が290万円のラインを超えたためと考えられます。
3-2-1.営業期間が1年未満の場合の注意点
開業初年度など営業期間が1年未満の場合、事業主控除額は月割計算になります。
| 営業期間 | 事業主控除額 |
| 1ヶ月 | 242,000円 |
| 2ヶ月 | 484,000円 |
| 3ヶ月 | 725,000円 |
| 4ヶ月 | 967,000円 |
| 5ヶ月 | 1,209,000円 |
| 6ヶ月 | 1,450,000円 |
| 7ヶ月 | 1,692,000円 |
| 8ヶ月 | 1,934,000円 |
| 9ヶ月 | 2,175,000円 |
| 10ヶ月 | 2,417,000円 |
| 11ヶ月 | 2,659,000円 |
| 12ヶ月 | 2,900,000円 |
月の途中で開業した場合でも、その月は「1ヶ月」としてカウントされます。例えば7月31日に開業した場合でも、7月分は1ヶ月として計算されるため、7月〜12月で6ヶ月分の控除(145万円)が適用されます。廃業の場合も月割計算が適用されます。例えば、1月から6月まで営業して6月30日に廃業した場合、事業主控除は145万円となります。
開業初年度は、事業主控除が月割になるため、1月開業と12月開業では控除額に約266万円(290万円 – 24.2万円)もの差が生まれます。ただし、納税額を抑えるために開業を遅らせることは本末転倒です。事業を始めるタイミングは事業の準備状況を最優先に判断しましょう。
3-3.STEP3:業種に応じた税率を掛けて算出する
最後に、控除後の金額に業種ごとの税率を掛け合わせます。多くのフリーランスが該当する「第1種事業(請負業など)」や「第3種事業(デザイン業など)」は5%です。
例えば、1年間営業した第1種事業者が、青色申告特別控除前の利益として400万円を得ていた場合の計算は以下の通りです。
- 所得400万円から事業主控除290万円を引く(400万円 – 290万円 = 110万円)
- 課税対象額110万円に税率5%を掛ける(110万円 × 5% = 5.5万円)
このケースでは、5万5,000円が年間の納税額となります。青色申告特別控除を引いた後の金額で計算すると納税額が合わなくなるため、必ず「控除前の所得」を用いるようにしてください。
4.いつ・どうやって払う?納付時期と支払い方法
個人事業税の納税において、自身で税額を計算して申告書を作成する必要はありません。なぜなら、2月〜3月に行った所得税の確定申告の内容に基づいて、各都道府県の税務事務所が自動的に税額を算出する仕組み(賦課徴収方式)を採用しているからです。
所得税の確定申告書または住民税の申告書を提出していれば、8月頃に納税通知書が自宅や事務所に届くのを待つだけで問題ありません。ここからは、具体的な納付スケジュールと、利便性の高い支払い方法について詳しく解説します。
4-1.納付スケジュールは年2回
個人事業税の納付は、原則として8月と11月の年2回に分けて行います。具体的な納付期限は以下の通りです。
- 第1期納付期限:8月末日
- 第2期納付期限:11月末日
※納付期限が土日祝日の場合は翌平日
8月上旬から中旬頃に、都道府県税事務所から「個人事業税納税通知書」が届きます。通知書の中には、第1期分と第2期分の2枚の納付書が同封されていることが一般的です。第2期分の納付書を11月まで紛失しないよう、大切に保管しておきましょう。万が一、第2期分の納付書を紛失してしまった場合は、都道府県の税務事務所に連絡すれば再発行してもらえます。
税額が少なく年間の納税額が1万円以下の場合、8月に一括で全額を納めるルールとなっています。事業が軌道に乗り始めたばかりの段階では、分割ではなく一括の納付書が届く可能性がある点も覚えておきましょう。
4-2.選べる納付方法
個人事業税の納付には、複数の選択肢が用意されています。ただし、個人事業税は都道府県税のため、対応している納付方法は都道府県によって異なります。資金繰りやポイント還元の有無など、自身の状況に合わせて最適な方法を選択しましょう。
4-2-1.金融機関・コンビニでの窓口払い
同封された納付書を持参し、銀行や郵便局、コンビニエンスストアのレジで直接支払う方法です。現金で支払うため、その場で領収印が押された控えを受け取れます。確実な支払い証明をすぐに手元に残したい場合に適しています。
4-2-2.口座振替(自動引き落とし)
指定した銀行口座から、納付期限の日に自動で引き落とされる方法です。一度手続きを済ませれば、第2期の11月分も自動的に決済されるため、納付忘れを防止できます。うっかりミスを避けたい方に非常に推奨される方法です。
ただし、事前に口座振替依頼書を提出し、登録完了まで1〜2ヶ月程度かかるため、初回の納付には間に合わない可能性があります。また、すべての都道府県で対応しているわけではないため、お住まいの都道府県の税務事務所に確認が必要です。
4-2-3.クレジットカード払い
各都道府県が用意している専用の納付サイトから、カード情報を入力して支払う方法です。手元に現金がなくても決済が可能で、カード固有のポイントが貯まるメリットがあります。
ただし、以下の注意点があります。
- 決済額に応じたシステム利用料(手数料)が自己負担となる
- 領収書は発行されない
- 税額100万円未満のみ対応(東京都の場合)
- 口座振替を利用している場合は、事前に停止手続きが必要
手数料と還元ポイントのバランスを考慮して選択する必要があります。
4-2-4.スマホ決済アプリ
PayPay、d払い、au PAY、メルペイ、Amazon Pay、楽天ペイなどのアプリを使用し、納付書のバーコードをスキャンして支払う方法です。自宅にいながら24時間いつでも納税が可能で、非常に利便性が高いのが特徴です。アプリによっては独自のポイント還元を受けられる場合もあります。ただし、領収書は発行されないため、通帳記録やアプリの支払い履歴で納付を確認する必要があります。
5.確定申告のルール
事業税は、支払った個人事業税の全額を「租税公課」として経費計上できるため、実質的に納付した年の節税につながります。適切な経費処理を行うことで、事業の利益を正しく算出し、翌年の所得税負担を軽減することが可能です。
以下では、具体的な仕訳の書き方や、申告時に見落としがちな重要事項について詳しく解説します。
5-1.仕訳の具体例
個人事業税を支払った際は、「租税公課(そぜいこうか)」という勘定科目を使って仕訳を行います。支払ったタイミングでその年度の経費に計上することが基本です。
ここでは、支払い方法に応じた2つの仕訳例を紹介します。
5-1-1.事業用の銀行口座や現金から支払った場合
事業専用の資産から支払った場合は、もっともシンプルな仕訳になります。
(例)8月に第1期分として3万円を事業用口座から支払った場合
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
| 租税公課 | 30,000円 | 普通預金 | 30,000円 |
5-1-2.個人用の現金やプライベート口座から支払った場合
多くの個人事業主が陥りやすいのが、私用の財布から納税した場合の処理です。この場合は「事業主借」という科目を使用します。
(例)11月に第2期分として3万円を個人の財布から支払った場合
| 借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
| 租税公課 | 30,000円 | 事業主借 | 30,000円 |
5-2.確定申告書を作成する際の注意点
個人事業税を経費計上する際には、「計上するタイミング」と「記入場所」を間違えないように注意が必要です。個人事業税は、所得税の計算における「所得控除」ではなく、事業の「必要経費」として扱われます。
注意すべきポイントは以下の通りです。
①計上するタイミング
個人事業税は「支払った年」の経費になります。例えば、2024年の利益に対して課された個人事業税を2025年に支払った場合、2025年分の確定申告で経費計上します。
②記入場所
青色申告決算書や白色申告の収支内訳書にある「租税公課」の欄に記入します。社会保険料控除や生命保険料控除のように、確定申告書の「所得控除」欄に記入するものではない点に注意してください。
③通知書・領収書の保管
納税通知書や領収書は、経費の証拠書類として7年間の保存義務があります。会計ソフトへの入力が完了した後も、破棄せずにファイリングしておきましょう。
このように、正しく経費として処理することで、事業の利益が適切に計算され、結果として賢い節税につながります。
6.よくある質問
6-1.年の途中で開業・廃業した場合、290万円の控除はどうなりますか?
事業主控除の290万円は月割り計算されます。例えば、1月から12月まで12ヶ月間営業した場合は290万円満額ですが、6ヶ月間のみ営業した場合は145万円が控除額となります。営業期間の計算では、1ヶ月未満の端数は1ヶ月として計算します。
なお、廃業した年度は個人事業税の見込控除の計算が必要になる場合があります。見込控除を適用することで、廃業後に通知がくる個人事業税を、見込みで廃業年度の経費として計上することができるため、廃業時には見込控除の計算も検討すると良いでしょう。
6-2.ライターやデザイナーなどの「クリエイティブ職」は非課税と聞きましたが本当ですか?
一概に非課税とは言えません。業種名ではなく、実際の業務内容や契約形態によって判断されます。
非課税になりやすいケース
- ライター・文筆家:原稿料や印税収入が中心の場合
- 画家・イラストレーター:作品の制作・販売が中心の場合
課税対象になるケース
- デザイン業:Webデザイン、グラフィックデザインなどは第3種事業(税率5%)に該当
- 請負業:成果物の納品を伴う契約形態の場合、請負業と判断される可能性があります
例えば、ライターでも企業からの業務委託で記事制作を請け負っている場合は、請負業として課税対象になる可能性があります。判断に迷う場合は、管轄の都道府県税事務所へ確認することをおすすめします。
6-3.赤字だった場合や、所得が290万円以下の年も通知は届きますか?
原則として、事業所得が290万円以下の場合は個人事業税が課税されないため、納税通知書は届きません。ただし、前年の所得が一定以上あった場合には、都道府県から確認のための書類が届くことがあります。所得が290万円以下であることを確定申告で正しく申告していれば、納税は発生しません。
6-4.納付期限に遅れてしまったり、一括で支払えない場合はどうすればよいですか?
納付期限を過ぎると延滞金が発生する可能性があります。また、一括での支払いが困難な場合は、速やかに都道府県税事務所の窓口へ相談してください。
相談することで得られる可能性のある措置
- 分割納付:月々の分割払いが認められる場合があります
- 徴収猶予:事業の状況によって納付を猶予してもらえる場合があります
放置すると延滞金が増え続けるだけでなく、最悪の場合は財産の差し押さえに至る可能性もあります。支払いが困難な場合は、納付期限前に早めに相談することが非常に重要です。
7.まとめ 個人事業税の仕組みを理解してスムーズな納税準備を
個人事業税は、事業所得が290万円を超えると発生する税金です。所得税とは異なり「全額を経費にできる」という特徴があるため、支払うことで翌年の所得税負担を軽減できるメリットもあります。
正しい知識を持つことで、税金に対する不安を解消でき、事業の成長に集中できるようになります。今回の解説をもとに、ご自身の昨年の利益から納税額の目安を計算してみることから始めてみてはいかがでしょうか。


