事業を始めた際、最初に意識するのが「開業届」の提出ではないでしょうか。
一方で、いざ準備を始めると「いつ出すのが正解?」「今の状況で出して損をしない?」と、不安や疑問を感じる方も少なくありません。
この記事では、開業届を出すメリット・デメリットから、適切な提出タイミング、具体的な手続き方法までを分かりやすく解説します。
開業届についての疑問をスッキリ整理し、自信を持って事業の第一歩を踏み出すためのガイドとして、ぜひ最後までお読みください。
目次
1.事業を始めたら開業届を出しましょう
開業届は、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
税務署に事業を開始したことを申告するための書類で、新たに事業所得、不動産所得または山林所得を得る事業を開始した人が提出の対象です。
所得税法では、原則として事業を始めてから1ヶ月以内に所轄の税務署に提出することが義務付けられています。提出しなかったことによる罰則はありませんが、国で決められた手続きですので、基本的には速やかに行うものと覚えておきましょう。
一方で、これから事業を始めようと考えている段階の場合、扶養や他の制度との兼ね合いなど、提出するタイミングに悩みやすいケースも見られます。
そこで次からの章では、開業届を出すことで生じるメリット・デメリットを確認し、「開業届を出すことで何が変わるのか」「どんな点に注意すべきか」を具体的に解説していきます。
2.開業届を出すメリット
開業届を出すことで得られるメリットは主に4つあります。順に見ていきましょう。
2-1.事業主としての名前「屋号」が使えるようになる
開業届を提出すると、屋号(事業用の名前)を使えるようになります。
屋号があることで、屋号名義の銀行口座やクレジットカードを作りやすくなり、 プライベートと事業のお金を分けて管理しやすくなります。
また、取引先との契約や請求書発行の際も、個人名のみより「事業者」としての信頼性が高まります。
2-2.節税に有利な「青色申告」ができるようになる
開業届を出すことによる最大のメリットとも言えるのが、節税効果の高い「青色申告」ができるようになる点です。 青色申告には、以下のような優遇措置があります。
・最大65万円の青色申告特別控除:利益から最大65万円を差し引いて税金を計算できる
・赤字の繰り越し:事業で赤字が出た場合、その損失を最長3年間繰り越して翌年以降の税金を抑えられる
・専従者給与:条件を満たせば家族へ支払う給与を経費にできる
・少額減価償却資産の特例:30万円未満の減価償却資産を一括で経費にできる
ただし、青色申告を利用するには開業届とは別に「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
また、複式簿記での記帳が求められるため、事務がやや複雑になる点に注意が必要です。
2-3.退職金を作りながら節税できる「小規模企業共済」に加入できる
小規模企業共済は、いわば「個人事業主のための退職金制度」です。
この制度は、原則として開業届を出している事業主でなければ加入できません。
掛金の全額が所得控除になるため、将来の備えをしながら、毎年の住民税や所得税を賢く節税できます。
この制度を利用したいという方は、 開業届を出す必要があるでしょう。
2-4.保育園や補助金申請など、公的手続きで「仕事の証明」として使える
開業届を出すことで、「私は事業を営んでいます」という公的な証明になります。
以下のようなケースで、開業届の控えの提出を求められることがあります。
・保育園の入園申請
・融資や補助金・助成金の申請
開業届を出していないと、事業の実態を証明できず、これらの手続きがスムーズに進まない可能性があります。
3.開業届を出すデメリット
メリットの多い開業届ですが、状況によっては提出に注意が必要なケースもあります。
後から「知らなかった!」と後悔しないよう、以下の3点を確認しておきましょう。
3-1.家族の扶養から外れる可能性がある
開業届を出したことをきっかけに、家族の扶養から外れる可能性がある点には注意が必要です。
扶養の判定は、健康保険組合や加入している制度によって扱いが異なります。
中には「開業届を提出=事業を開始した」と判断して収入の有無にかかわらず社会保険の扶養から外れるケースもあります。
そのため扶養に入っている場合は、事業を開始して開業届を出す前に、加入している保険組合の基準を確認しておくことが重要です。
3-2.失業保険を受給中の場合、支給対象外になる可能性がある
開業届を出すと「事業を開始した(=失業状態ではない)」とみなされ、失業保険の支給が打ち切られる可能性があります。
これは開業届を出す場合に特に注意すべき点の一つです。
ただし、要件を満たした場合には、残りの受給日数分の一定割合をまとめて受け取れる「再就職手当」の対象になる可能性があります。
失業保険を受給中、または受給予定の場合は、まずはハローワークの窓口で「これから開業を考えている」と相談してみるのが良いでしょう。
3-3.事業をやめる際に、廃業届の提出が必要になる
開業届を提出した場合、事業をやめる際にも税務署に「廃業届」を提出する必要があります。
「放置しておいてもいいのでは?」と思うかもしれませんが、廃業届を出さないままだと、税務署から「確定申告がされていません」という確認の連絡が来たり、事業を続けている前提で案内が届き続けたりすることがあります。
提出自体は難しいものではありませんが、 最後まで責任を持って手続きを行う必要があるという点は覚えておきましょう。
4.開業届を出すべき?出さないべき?チェックリスト
4-1.開業届を今出すべきかのチェックリスト
前提として、税務署のルールでは「すでに事業を始めている場合、開業届を提出するのが原則」です。
そのうえで、「まだ準備段階の方」「事業を始めたとは言い切れない方」が、今すぐ出すべきかを判断するためのチェックリストを用意しました。
<開業届を「今すぐ出す」のがおすすめなケース>
□すでに仕事の依頼を受け、継続的に報酬を得る見込みがある
□今後も事業として続けていく意思が固まっている
□屋号で口座やクレジットカードを作りたい
□「青色申告」を利用して節税をしたい
□「小規模企業共済」に加入して退職金作りを始めたい
以上の項目に当てはまるなら、早めに提出してメリットを最大限に活かしましょう。
<タイミングを「慎重に検討すべき」ケース>
□まだ売上の見込みが立たず、事業を続けるか迷っている
□失業保険を受給中、または受給予定がある
□家族の扶養に入っており、開業届だけで扶養を外れる健保に加入している
以上の状況にある方は、提出によるデメリットがメリットを上回る可能性があるため、注意が必要です。
4-2.開業届を出しても出さなくても確定申告は必要
開業届を出しているかどうかに関わらず、事業で一定以上の所得(売上ー経費)が発生していれば、帳簿の作成や確定申告の義務が生じます。
<確定申告が必要となる所得基準>
・副業(給与所得がある)の場合:給与以外の所得(事業所得など)が年間20万円を超えると、原則所得税の確定申告が必要となります。
・専業(給与所得がない)場合:合計所得金額が基礎控除額を超えると、原則、所得税の確定申告が必要となります。※令和8年分以後の基礎控除は、所得に応じて「58万円~95万円」のうちで変動します。
「開業届を出していないから申告は不要」ということにはなりません。
売上や経費の領収書は必ず保管し、正しく記帳しておきましょう。
5.開業届を出す際の手続きの流れ
5-1.税務署もしくはe-Taxで提出する
開業届は、以下のいずれかの方法で提出できます。手数料などは一切かかりません。
・e-Tax(オンライン):スマホやPCから24時間提出可能。マイナンバーカードがあれば最も手軽です。
・税務署へ持参・郵送:お住まいの地域を管轄する税務署へ提出します。
Webでの手続きに慣れている方や、税務署へ出向く時間がない場合は、e-Taxでのオンライン提出が便利です。
e-Taxでの提出に不安がある場合は、所轄の税務署窓口で相談のうえ、手続きすることも可能です。
開業届を提出する所轄の税務署は、国税庁が公開している「税務署の所在地などを知りたい方」から検索できます。
【注意】2025年1月から「控えへの収受日付印」が廃止されました
これまで、紙で提出した際にもらえていた「収受日付印(受領の証明印)」が廃止されました。
今後、金融機関や公的な申請において開業届の提出を証明する必要がある場合には、以下のような方法があります。
・e-Tax(オンライン)で出した場合:送信後に届く「受信通知」、もしくは「電子申請等証明書」が証明になります。
・郵便や窓口(書面)で出した場合:収受印はもらえませんが、当面の間は経過措置として「日付と税務署名が入ったリーフレット」をもらうことができます。
郵送の場合は、返信用封筒を同封すれば、リーフレットが返送されます。
また、費用はかかりますが税務署に対して「保有個人情報の開示請求」を行うことで、正式な写しの交付をしてもらうことも可能です。
5-2.必要書類を用意する
次のものを用意しましょう。
・個人事業の開業・廃業等届出書(開業届):国税庁ウェブサイトからダウンロードして印刷できるほか、所轄の税務署窓口でも用紙を取得できます。
・マイナンバー確認書類:マイナンバーカード、もしくはマイナンバーの通知カードやマイナンバーの記載のある住民票の写しが必要となります。
通知カードもしくは住民票の写ししかない場合は、別途本人確認書類も準備しておきましょう。
・印鑑:訂正がある場合に必要となります。窓口に提出する場合は、念のため持参しましょう。
5-3.開業届と一緒に出すと良い書類を準備する
開業届の提出とあわせて、一緒に出しておくと後の手続きがスムーズになる書類もあります。以下の書類もセットで検討しましょう。
・「所得税の青色申告承認申請書」:青色申告を適用するなら必須です。後から出すと期限を忘れがちなので、開業届と同時に出すのをお勧めします。
・「適格請求書発行事業者の登録申請書」:インボイスの発行をする場合に提出します。
※現在(2029年9月まで)は特例により、この申請書を出すだけで自動的に消費税の課税ルールが適用されるため、下記の「消費税課税事業者選択届出書」を別途用意する必要はありません。
・「消費税課税事業者選択届出書」:あえて消費税を納める「課税事業者」になりたい場合に提出します。
これらの提出先は開業届と同じく税務署になりますので、必要に応じてまとめて準備しておくと安心です。
5-4.申請書の書き方で迷いやすいポイントに気を付ける
開業届の記入で、多くの人が迷うポイントをまとめました。
・開業日:厳密なルールはありません。「初めて報酬をもらった日」や「サイトを開設した日」など、自分が事業を始めたと思う日でOKです。
・屋号:決まっていなければ空欄で提出しても問題ありません。
・給与等の支払の状況:自分一人で始める(家族への給与もない)場合は空欄で構いません。
・事業内容:誰が見ても仕事内容がイメージできるように書きましょう。
不安な場合は、国税庁の記載例を参考にしながら記入すると安心です。
6.まとめ 開業届は「事業のスタートライン」
開業届は、失業保険の受給中などタイミングに注意が必要なケースもありますが、基本的には事業を始めたら速やかに提出するものです。
現在は、2025年からの「収受印廃止」により、マイナンバーカードを使ったe-Tax(オンライン提出)が最も便利で、提出の証明もしやすい推奨の方法となっています。
開業届の提出は、税務上の手続きであると同時に、あなた自身が「個人事業主として歩み出す」という決意表明でもあります。
この記事が、あなたの疑問や不安を解消し、新しい事業を晴れやかな気持ちでスタートさせるための一助となれば幸いです。



