有限会社は設立できない?理由と他の起業方法について解説

会社設立を漠然と考えている方の中には、「有限会社を設立したい」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、現在の日本では有限会社を新たに設立することはできません。これは、2006年の会社法施行により制度が大きく変わったためです。

この記事では、有限会社が設立できない理由から、現在設立できる会社形態、そして最適な形態選択のポイントまでわかりやすく解説します。


1.有限会社とは

有限会社は、かつて会社を設立する際に一般的に選ばれていた会社形態です。昭和13年に制定された「有限会社法」を根拠法として成立しました。

有限会社の主な特徴は、株式会社よりも設立・運営が簡易でありながら、出資者(社員)の責任が出資額に限定される「有限責任」であったことです。社員全員が有限責任の出資者であり、会社が多額の負債を負った際でも出資した額までしか責任を負う必要がありませんでした。

また、旧商法下では、有限会社の設立には最低300万円の資本金が必要でした。これは当時の株式会社の最低資本金(1,000万円)よりも低く設定されており、小規模事業者にとって使いやすい制度となっていました。

役員の任期の制限や決算公告義務もないなど、管理運営面でも小規模企業に適した特徴を持っていました。


2.有限会社を新規に設立することはできない

現在、有限会社は新規に設立することができません。

これは2006年5月1日に施行された会社法(平成17年法律第86号)によって、有限会社法が廃止されたためです。会社に関する法制度を「会社法」に一本化し、分かりやすく利用しやすいものにするという狙いで改正が行われたとされています。

この法改正では、有限会社法の廃止と合わせて、株式会社の設立要件が大幅に緩和されました。具体的には以下の変更がありました。

  • 最低資本金制度が廃止され、実質的に1円から株式会社の設立が可能に
  • 取締役が1名以上いれば設立可能に
  • 取締役会の設置が任意に

こうした緩和措置により、小規模な事業でも株式会社を選択しやすくなりました。

つまり、株式会社の設立が従来より簡易になったことで、株式会社と有限会社の区別を維持する意義が薄れたため、有限会社法は廃止されるに至ったのです。


3.特例有限会社とは

特例有限会社とは、2006年の有限会社法廃止・会社法施行後も存続し続けている有限会社のことです。

特例有限会社は、会社法上では「株式会社」の一種として扱われますが、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法)」により、旧有限会社法に基づく特例が適用されます。

商号に関する規定も特殊で、通常の株式会社であれば「株式会社」の文字を商号に使わなければなりませんが、特例有限会社は例外として「有限会社」の文字を引き続き使用することが義務付けられています。

有限会社から特例有限会社への移行により、以下のように権利や義務関係が自動的に変わりました。

  • 旧有限会社における「社員」 → 特例有限会社においては「株主」に
  • 旧有限会社における「持分」 → 特例有限会社においては「株式」に
  • 旧有限会社における社員名簿 → 特例有限会社においては株主名簿とみなされる
  • 特例有限会社における発行済み株式の総数は、旧有限会社の資本の総額を出資1口の金額に除した数

このように特例有限会社は、形式上は株式会社となりましたが、実質的には旧有限会社時代の多くの特徴を維持したまま存続しているのです。

なお、定款の変更と登記申請(解散登記と設立登記)を行うことで、特例有限会社から株式会社などの他の会社形態へ移行することができます。ただし、他の会社形態から特例有限会社へ戻ることはできません。移行を視野に入れている場合は、以下で紹介するメリット・デメリットを踏まえてよく検討する必要があります。

3-1.特例有限会社のまま存続させるメリット

特例有限会社のまま存続させる大きなメリットは、管理コストや手間がかからないことです。役員の任期制限がないため、定期的な役員変更(重任)登記が不要であり、登記手続きの手間や登録免許税等がかかりません。

決算公告義務もないため、公告費用(官報掲載なら年間約7.5万円)や公告掲載の手間も不要となります。

また、商号に「有限会社」と付いていることで、会社法が施行された2006年以前から会社が存在していたことを示すことができます。これにより、取引先や顧客に歴史があり安定した企業という印象を与えることも期待できるでしょう。

3-2.特例有限会社のまま存続させるデメリット

特例有限会社のまま存続させるデメリットとしては、まず信用力・認知度の問題があります。「有限会社」の名称から旧制度下のイメージを持たれ、株式会社より信用力が低いと見なされる可能性があります。

また、吸収合併時の存続会社や吸収分割時の承継会社になれない、株式交換・株式移転が利用できない、株式市場への上場ができないなどの制限があるため、起業の成長戦略や組織再編にも制約がかかってしまいます。

これらに加えて、役員任期がないことで経営陣が固定化されやすくなる点もデメリットとして挙げられるでしょう。ワンマン経営によって、経営環境の変化への対応遅れや従業員の意欲低下を招く可能性もあります。


4.現在設立可能な会社形態4つ

2章でお伝えしましたように、有限会社を新規に設立することはできませんが、現在の日本では4つの会社形態を選択することが可能です。それぞれの特徴を見ていきましょう。

4-1.株式会社

株式会社は日本で最も普及している会社形態です。国税庁の会社標本調査(令和5年度分)によれば、日本の法人のうち約9割(89.9%)を株式会社が占めており、社会的信用度が高いことが特徴です。

株式を発行して資金調達を行い、経営は取締役が行います。原則として所有と経営の分離が前提ですが、中小企業では一致していることも多くあります。株主は出資額の範囲内で責任を負う有限責任です。

設立費用(最低法定費用)は、電子定款を利用した場合で約20万円~、内訳としては定款認証約5万円、登録免許税が15万円~となります。紙の定款を作成する場合は収入印紙代の4万円が追加でかかります。

株式会社設立のメリット・デメリット

株式会社のメリットは、認知度が高く、遵守すべき法律も多いため、他の会社形態と比べて比較的社会的信用度が高いことです。そのため、取引、融資、採用活動などにおいて有利に働くことが多いです。

また、多様な資金調達手段(株式発行、増資、上場など)があり、株主は有限責任であるため個人財産へのリスクが限定されています。

税制面でも、個人事業主と比較して経費として認められる範囲が広かったり、赤字が出ても10年間にわたって繰越が可能などのメリットがあります。

デメリットとしては、設立・維持コストが高いことがあります。これには設立費用だけでなく、役員変更登記や決算公告などの継続的な費用も含まれます。また、会社法による規制、会計・税務処理、社会保険加入義務など、運営面も複雑です。

4-2.合同会社

合同会社は2006年に導入された比較的新しい会社形態です。株式会社と異なり、出資者(社員)が同時に経営者となる、所有と経営の一致が原則となります。社員全員が有限責任を負う点が特徴で、設立件数は増加傾向にあります。

設立費用(最低法定費用)は、電子定款利用時で約6万円~であり、主な内訳は登録免許税(6万円~)です。紙定款を使用する場合は、収入印紙代4万円が追加されます。また、株式会社の設立時には必要である定款の認証が、合同会社設立時は不要となります。

合同会社設立のメリット・デメリット

同会社のメリットは、設立・維持コストの低さです。設立費用が安く、役員任期も設定されておらず、決算公告義務もないため継続的なコスト負担が軽減されます。

また、経営の自由度・柔軟性が高いため、定款自治(会社運営のルールを定款で自由に決められること)と自由な利益配分、迅速な意思決定が可能です。社員は有限責任であり、税制上のメリットは株式会社と同様です。

デメリットとして、社会的信用度・認知度が株式会社より低い傾向があり、取引、融資、採用において不利になることが挙げられます。資金調達手段も限定的で、株式発行や上場はできません。

また、社員間で意見が対立した場合、解決が困難になるリスクがあります出資額に関係なく1人1票の議決権があることや、利益配分に関する規定がなく自由に決められることから、トラブルにつながる可能性が高いためです。

4-3.合名会社

合名会社は、出資者(社員)全員が無限責任社員となる会社形態です。無限責任とは、会社の債務に対し出資者がすべての返済義務を負うことです。すべての出資者に大きな責任が課されるため、信頼の置ける親族等と経営する場合に選択されることがあります。

設立費用は低く(登録免許税6万円~、定款認証不要)、経営の自由度・柔軟性が高いことが特徴です。また、金銭だけでなく労務提供や信用も出資の対象となります。

合名会社設立のメリット・デメリット

名会社のメリットは、設立が容易で低コストであること、運営の柔軟性があることです。

デメリットとしては、社員全員が負う無限責任リスクが極めて高いこと、社会的認知度・信用度が非常に低いことがあります。合同会社の登場により、合名会社の新規設立は極めて稀となっています。

4-4.合資会社

合資会社は、無限責任社員と有限責任社員が各1名以上必要な会社形態です。無限責任社員は合名会社の社員の場合と同じく、全債務に責任を負います。

設立費用の安さや経営の自由度・柔軟性の高さは、合同会社・合名会社と同じです。無限責任社員が経営、有限責任社員が出資という分業が可能で、無限責任社員は労務提供や信用も出資できます。

合資会社設立のメリット・デメリット

資会社のメリットは、低コストで設立できること、運営の柔軟性があることです。

デメリットは、無限責任社員のリスクが高いこと、最低2名(無限責任・有限責任各1名以上)が必要で、一方の種類の社員がいなくなると形態変更・解散しなければならない可能性があることです。社会的認知度・信用度が低く、新規設立は稀であり、事業承継が複雑になる傾向があります。


5. 最適な会社形態を選ぶための3つのポイント

有限会社を設立できない現状において、どの会社形態を選べばよいのでしょうか。4章でご紹介した4つの会社形態とそれぞれの特徴を踏まえた上で、最適な選択をするための重要なポイントを見ていきましょう。

なお、形態選択の際には将来の成長や変化の可能性も考慮し、後から変更するコストや手間も加味して判断することをおすすめします。例えば、小規模で始めて徐々に拡大する計画なら、まずは合同会社で始め、規模が大きくなったら株式会社に組織変更するという段階的なアプローチも検討しましょう。

※それぞれの会社形態の特徴や選択のポイントなどについては、以下の記事も参考にしてみてください。

2024年】設立できる会社形態は4種類!それぞれの比較と選び方

5-1. 起業目的と事業計画から会社形態を選ぶ

会社形態を選ぶ際には、自分のビジネスの目的や将来計画と照らし合わせて検討することが重要です。起業の根本的な目的や長期的なビジョンによって、最適な選択肢は変わります。

5-1-1. 有限責任・無限責任の検討

まず考慮すべきは、有限責任(株式会社、合同会社、特例有限会社、合資会社の有限社員)と、無限責任(個人事業主、合名会社、合資会社の無限社員)のいずれを選ぶかということです。この選択は、事業失敗時のリスクに大きく影響します。

有限責任は、出資した金額の範囲内でのみ責任を負うことを意味し、個人の財産まで責任が及ぶことはありません。一方、無限責任とは事業の負債について無制限に責任を負うことで、必要に応じて個人財産によって弁済する義務が生じます。一般的にリスクを回避したい場合は、有限責任の形態を選ぶことが多いです。

5-1-2. 経営の自由度と意思決定の検討

営の自由度と意思決定についても検討しましょう。

迅速な意思決定や内部ルール(利益配分等)の柔軟性を重視するなら合同会社が適しています。一方、株式会社は会社法による規制が多く、株主総会や取締役会など厳格な手続きが必要になる場合があります。

5-1-3. 将来の事業展開の検討

来の事業展開も重要な判断材料です。

成長志向が強く、将来的に株式上場(IPO)を目指すなら株式会社が最適です。小規模でスタートし、特に会社としての社名の信頼度や認知度よりも、商品の質やサービスで勝負したいという場合は合同会社が有力な選択肢となります。

5-1-4. 事業承継の検討

業承継についても考慮が必要です。

株式会社は株式の相続・譲渡が基本となり比較的明確ですが、合同会社は持分の相続には定款で規定を設け、譲渡には社員の同意が必要です。合名・合資会社はさらに複雑になる傾向があります。

5-1-5. 事業内容・取引形態の検討

業内容・取引形態も検討しましょう。

法人相手のビジネス(BtoB取引)が中心の場合、株式会社の持つ信用力が有利に働くことがあります。一方、家族経営や信頼できるパートナーとの事業なら、合同会社が安全で現実的な選択肢となるでしょう。

5-2. 資金調達や設立・運営コストの面から考える

会社経営においては、資金や設立・運営コストの面からの検討も大切です。なお、税負担の面においては、どの会社形態を選択しても大きな違いはありません。

5-2-1. 資金調達面からの検討

資金調達面からの検討においては、外部からの大規模資金調達(株式投資を含む)を計画している場合、株式会社が良い選択肢となります。これは、株式会社のみが株式発行や上場の可能性を持つためです。

借入が中心となる資金調達をするのであれば合同会社や個人事業主でも可能ですが、金融機関との交渉では株式会社の方が信用力で有利な場合が多いでしょう。

5-2-2. 設立・運営コストからの検討

設立・運営コストの観点では、合同会社、合名会社、合資会社の設立費用(約6万円~)は株式会社(約20万円~)より低く、費用を抑えて会社を設立することが可能です。

維持費用においても、合同会社、合名会社、合資会社、特例有限会社は役員任期がなく、公告義務もないため比較的低コストで運営できます。株式会社の場合は、役員変更登記や決算公告などでコストが発生します。

5-3. 信用力と対外的なイメージを考慮する

会社を運営する上で、取引先や金融機関、顧客からどう見られるかという「信用力」と「対外的なイメージ」は非常に重要です。会社形態の選択は、この面にも大きく影響します。

社会的信用度に関しては、一般的に株式会社が最も高いとされています。合同会社は株式会社より低い傾向がありますが、Apple JapanやGoogleなど大手企業も採用する例が増え、徐々に認知度も高まっています。合名会社・合資会社は特殊な形態であるため、一般的に信用度は低いとされています。

この社会的信用度の重要性は、ビジネスモデルによって大きく異なります。大企業や官公庁との取引、金融機関からの大型融資、優秀な人材採用などを目指す場合には、株式会社の高い信用度が有利に働くことが多いでしょう。

一方、個人消費者向けのビジネスの場合や、すでに確立された取引関係がある場合、オンラインビジネスの場合などでは、会社形態自体はそれほど重視されないケースもあります。あなたのビジネスにおいて「信用力」がどれだけ重要な要素かを見極めることが大切です。


6. 税理士に相談してスムーズに会社設立を進めよう

会社設立は、これからビジネスを展開していく上での重要なターニングポイントとなりますが、最適な事業形態を選択するには法務・税務の知識も欠かせません。最終決定前に専門家への相談を強くお勧めします。

特に税理士への相談は非常に有益です。税理士は税務計画、申告、節税対策に関する専門家であり、あなたの個別の状況(事業内容、資金計画、将来展望など)に基づいた最適な会社形態や税務戦略をアドバイスすることができます。創業時の節税ポイントや、将来的な税負担の予測など、長期的な視点からの助言を活用することで、法人設立をスムーズに進めることができるでしょう。

他にも、複雑な定款作成や登記申請手続きに関しては司法書士へ、複雑な法的問題や重要な契約に関しては弁護士への相談も検討しましょう。専門家のサポートを受けながら、慎重かつ効率的に進めることで、ビジネスの良いスタートを切ることができます。


7. まとめ

この記事では、有限会社が設立できない理由から、現在選択可能な会社形態、そして最適な形態選びのポイントまで解説してきました。2006年の会社法改正により有限会社の新規設立はできなくなったため、新たに起業する場合は株式会社や合同会社など別の形態を選ぶことになります。会社形態の選択は将来のビジネス展開に大きく影響するため、ご自身の事業計画や状況に合わせて検討し、専門家への相談も活用しながら慎重に判断しましょう。

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