
「成年後見制度が改正されるとニュースで見たけど、どうかわるの?」
本記事をお読みの皆さんは、このような疑問をお持ちではないでしょうか。
2026年4月、政府は、成年後見制度の抜本的な改正案を閣議決定しました。
高齢化の進展に伴い制度の重要性が高まる中、本人の意思をより尊重しつつ、国民にとって柔軟で利用しやすい仕組みへと再構築されます。
改正案では、「制度を利用し始めたら原則亡くなるまでやめられない」とされていた運用が見直され、必要なときに必要な期間だけ活用できるより身近な制度へとなります。
本記事が、ご自身とご家族の安心な未来を守るための一助となれば幸いです。
※同時に閣議決定された、「デジタル遺言」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
■法務省 成年後見制度の見直し(法制審議会)について、民法等の一部を改正する法律案
■厚生労働省 成年後見制度とは
■法務省 成年後見制度とは
■辻・本郷相続ガイド 成年後見人が必要?認知症と遺産分割協議
目次
1.「成年後見制度」とは
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などで判断能力が不十分になった人に変わり、家庭裁判所により、選任された成年後見人、保佐人、補助人が、財産管理や法律行為を、保護・支援する仕組みです。
成年後見制度は2000年に導入されました。しかし、日本における認知症高齢者の人数が2020年の時点で約600万人と推計されるのに対し、2024年12月末日時点の利用者は約25万人にとどまっています。(裁判所公開資料 成年後見関係事件の概要 ー令和6年1月~12月ー)
1-1.成年後見人の役割は「財産管理」と「身上保護」
成年後見人の具体的な役割は、大きく分けて2つあります。
財産管理(お金の管理)
銀行口座の管理(預金の出し入れ)、不動産の売却や管理、税金や公共料金の支払い、不利益な契約の取り消しなど。身上保護(生活のサポート)
介護施設への入居契約、病院の入院手続き、必要な福祉サービスの申し込みなど。
1-2.成年後見制度は使い勝手が悪い
成年後見制度は使い勝手が悪いと言われています。
- 一度使用すると、本人の判断能力が回復しない限り、原則として亡くなるまで続く。
「不動産売却」「遺産分割協議」などのスポットニーズに対応できない。 - 後見人には弁護士や司法書士が選任されるため、報酬として月額2万〜6万円程度かかる。
2.成年後見制度|2026年改正で変わる重要ポイント
政府は2026年4月3日の閣議で、成年後見制度を利用しやすくする民法改正案を決定し、国会に同日提出しました。民法が改正されると「使い勝手が悪い」と言われている成年後見制度がどのように変わるのか、その重要ポイントを解説します。
| 比較項目 | 現行 | 改正案 |
|---|---|---|
| 利用期間 | 原則、本人が亡くなるまで利用を辞めることができない | 必要な期間が過ぎたら、利用を終えることができる |
| 後見人の選定 | 一度決定したら一生続く 交代しにくい | 本人の意思や家族の意向が尊重される |
| サポート範囲 | 本人の判断能力に応じて、 | 「補助」に一本化 |
| 費用 | 継続的な定額報酬 月々の費用が一生続く | 必要な時期に限って発生 |
2-1. 利用期間:原則「亡くなるまで継続」から、目的・期間を定めた利用へ
これまでは、一度制度を使い始めると、本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまでやめることができませんでした。
しかし、改正案では、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めた場合には、以下の2つの対応が可能という方向性が示されています。
- 補助開始の審判を取り消して制度を終了する
- 同意権・代理権、特定補助人の権利などの一部を取り消す
そのため、「実家の売却手続きの間だけ」「遺産分割協議が終わるまで」といった、利用期間を定めて目的を限定した利用がしやすくなる仕組みとなります。
2-2. 後見人の選定:本人の意思や親族との関係性をより重視する運用へ
これまでは、親族が候補者となっている場合でも、管理する資産額や親族間の合意状況などを理由に、家庭裁判所の判断で弁護士や司法書士といった専門職が選任されるケースが主流でした(約8割)。
改正案では、「本人の意思や、周囲との信頼関係をより重視する」ことが打ち出されています。今後は、本人の生活実態をよく知る親族などがサポートを担いやすくなるよう、選任のあり方が見直されます。
2-3. サポート範囲:個別の状況に応じた権限設定へ
現在の制度は、本人の判断能力の程度に応じて3つの類型(後見・保佐・補助)に分かれており、本人のニーズに応えづらい部分がありました。
改正後は、一律に「補助」のみとなり、権限は、遺産分割や不動産売却など「どの権利を誰がサポートするか」を個別に設定できるようになります。本人が自分でできることは尊重し、足りない部分だけを、最適な人が補うより自由度の高い支援できるようになります。
「特定補助制度」の新設
改正案では「特定補助制度」が新設されることになりました。
本人の自由を尊重しつつも、特に大事な「11の項目※(預金の払い出しや不動産の契約など)」について、本人がもし一人で契約してしまっても、無条件で取り消せる権限を後見人に持たせることができるようになります(※医師2人以上の意見が必要)。
これにより、「本人の自由を奪うのは嫌だけれど、高額な詐欺被害だけは絶対に防ぎたい」という家族の願いが、より安全に叶えられるようになります。
※11の項目には、預金の引き出し、借金、不動産の売買、遺産分割などが含まれます。
法務省:法制審議会-民法(成年後見法制)部会 「成年後見制度の見直しに関する要綱案」
2-4. 費用:作業に見合った「納得感」のある報酬へ
これまでの報酬は、後見人が専門家の場合、財産額に応じて「月額2万〜6万円程度」を原則亡くなるまで払い続ける「月額定額制」が一般的であり、利用者にとって大きな負担となっていました。
今後は、「実際に行った作業の内容や回数」に応じた報酬体系への見直しが検討されています。期間の限定利用と相まって、トータルでかかる費用を大幅に抑えられることが予想されます。
3.「実家売却」や「遺産分割」をスムーズに進める2つの具体的な活用ケース
よくある活用場面を想定して、現行の制度と改正案で成年後見制度の利用方法がどのように変わるのか解説します。
3-1.【ケース1】実家を売りたい時
1つ目のケースは実家を売りたい時です。
認知症になった親の介護費用を作るために、誰も住まなくなった実家を売りたいが、本人の判断能力がないために、不動産売買契約ができず手続きが止まってしまった。
- 現行
実家を売却するために成年後見制度を活用すると、望んでいない日常の財産管理まで任せることになる。また、毎月の報酬もかかり続けるため、利用を躊躇してしまい、結果的に「親の資産が凍結して何もできない」という状態になっていました。 - 改正案
「実家の売却手続きが終わるまで」という期限付きで成年後見制度を活用できるようになります。手続きが終われば、また自分たち(家族)の管理に戻るという柔軟な選択が可能になります。
3-2.【ケース2】遺産分割協議が進められない時
2つ目のケースでは、遺産分割協議が進まない時です。
父親が亡くなり、遺産(預貯金や不動産)を分ける話し合いをしたい。しかし、相続人の一人である母親が認知症のため、遺産分割協議が進められない。
- 現行
遺産分割協議を進めるためには、判断能力が不十分な相続人に対して後見人を選任する必要があります。しかし、成年後見制度を活用すると「相続手続きが終わった後も、母が亡くなるまで」後利用し続けることになるため、望んでいない日常の財産管理まで任せることになるほか、報酬も発生し続けます。この長期的な負担感から、手続きを放置してしまうケースが目立っていました。 - 改正案
「遺産分割協議の手続きを完了させるまで」と期限を決めて成年後見制度を活用することができます。
遺産分割協議が終了すれば、後見人の役割もそこで終わりとなります。その後の母の生活は、これまで通り家族が中心となって見守る、というメリハリのある使い方ができます。
4.実際の運用スタートは2028年度中の予定
本章では、閣議決定からのスケジュールについて解説します。
今回の「閣議決定」はあくまで政府としての方針が固まったという段階です。明日からすぐに制度が変わるわけではありません。今後の流れを確認しておきましょう。
| 2026年4月 | 政府が改正案を決定(閣議決定)←(本記事執筆現在) |
|---|---|
| 2026年内 | 国会で審議され、可決されれば法律として成立。 |
| 2026年〜2027年 | 裁判所や役所のシステム、ルールの準備期間。 |
| 2028年度中 | いよいよ新制度がスタート!(予定) |
実際に私たちが「期間限定で利用したい」と申し立てができるようになるのは、約2年後になる見込みです。この時間に、ご家族やご自身の将来を考えてみることをおすすめします。
5.まとめ
2026年4月、政府は成年後見制度を抜本的に見直す改正案を閣議決定しました。
これにより、制度利用の課題が見直され、利便性の高い制度へと整えられる見通しです。
これをきっかけに「まだ先のこと」と思わず、今のうちから家族で「将来どんなサポートが必要になりそうか」を話し合ってみることをおすすめします。 その一歩が、将来の家族全員の安心につながります。
また、今回の改正案では、生前の管理だけでなく、亡くなった後の意思をデジタルで残せる「デジタル遺言」も決定されました。「生きている間の安心(成年後見制度)」と「亡くなった後の安心(遺言)」の両面で柔軟な選択が可能になることで、老後の安心に向けた包括的な準備がよりスムーズに行えるようになると期待されています。
※デジタル遺言について詳しく知りたい方は、こちらの記事スマホで遺言?2026年導入の『デジタル遺言』をわかりやすく解説(内部リンク予定)もぜひ併せてご覧ください。

