夫婦で個人事業主になるなら?専従者・ダブル開業・法人化の考え方

夫婦で起業を検討している場合、もしくは夫婦ともに個人事業を行う場合、事業への関わり方にはいくつかの形があります。

「自分たちはどのように事業に関われば良いのだろう?」と考える方も多いと思います。

この記事では、夫婦で事業に関わる際の3つのパターンの選び方を、メリットデメリットを含めて解説します。
事業を行うにあたって迷ってる方は、ぜひご覧ください。


1.夫婦で事業に関わる「3つの選択肢」

夫婦で事業を行う形には、3つの選択肢があります。

①片方が「専従者」(事業を手伝う者)として支える

②二人がそれぞれ「個人事業主」として独立する

③「法人化」し、夫婦それぞれが会社から報酬を受け取る形にする

形態仕事のスタイル税務上の主なメリット
①専従者一方の事業を片方が手伝う専従者給与を経費にできる
②二人とも個人事業主別の事業もしくは個別受注青色申告控除を2人分受けられる
③法人化共同経営役員報酬による所得分散

それぞれの選択肢には、このような特徴があります。


2.どれを選ぶかは実態に合わせよう

3つのどの形態を選択するかは、原則として仕事のスタイルの実態に沿ったものを選びましょう。

すなわち、二人で共同して同じ事業を行っているのであれば、片方が専従者として働く形を選びます。

また、それぞれが別々の事業をしていたり、同内容の事業であってもそれぞれが個別に仕事を受注している場合などは、それぞれが個人事業主として独立するのが良いでしょう。

ある程度の売上がある場合には、法人化も検討の対象となります。

ですが、実際には選択に迷うケースもあるかと思います。
そこで次の章以降では、専従者になる場合とそれぞれが個人事業主として独立する場合のメリットデメリットを説明します。

「法人化」の検討目安についても触れていきますので、自分たちの現在の状況と将来のビジョンに照らし合わせながら、最適な形を検討してみてください。


3.片方が専従者になるメリット・デメリット

夫婦が同じ事業に携わる場合、「片方が事業主、もう片方が専従者になる」という選択が基本となります。

ただし、専従者制度にはメリットがある一方で、制約も存在しています。
制度の特徴を理解した上で判断することが重要です。

3-1.【メリット】所得を分散させて、世帯全体で見た税負担を抑えられる

片方が専従者となることで、事業主の所得を分散し、世帯全体で見た所得税・住民税の負担を抑える効果が期待できます。

専従者として働く配偶者に支払う「専従者給与」は、一定の要件を満たせば必要経費にできます。
また、日本は所得が高いほど税率が上がる「累進課税」のため、一人で大きな所得を持つより、二人で分けた方が税率を低く抑えられる場合があります。

さらに、住民税の税率は一律ですが、給与を受け取る配偶者は「給与所得控除」を適用できます。この控除枠の分は税金がかからないため、結果として世帯合計の住民税額を抑えることが可能です。

ただし、専従者給与を経費にする際には、次の点に注意が必要です。

・全額経費にできるのは「青色申告」のみ: 事前に届出を出し、青色申告を行っている場合に限り、要件を満たす適正な給与額を全額経費にできます。

・白色申告は控除額に上限あり: 白色申告の場合、経費ではなく「専従者控除」という扱いになります。配偶者であれば年間最大86万円までしか認められず、節税効果は限定的です。

・「適正な金額」でなければならない: 仕事内容や労働時間に対して、世間一般の相場(近隣の時給など)と比較して高すぎると、税務署から否認されるリスクがあります。

3-2.【メリット】確定申告の手間が一人分で済む

事務作業のシンプルさも、専従者制度の大きな魅力です。
帳簿付けや決算作業、確定申告書の作成は事業主側のみで良いため、夫婦全体の事務負担を最小限に抑えられます。

夫婦それぞれが個人事業主になるケースと比べると、以下のようなメリットがあります。

・専従者側は申告の手間がない: 専従者側は「給与を受け取る立場」となるため、原則として自身で確定申告をする必要はありません。事業主側が適切に年末調整や源泉徴収を行うことで、専従者側の納税手続きは完結します。

・日々の管理が集約できる: 仕事用口座の管理や領収書の整理など、日々の経理作業も一つに集約できるため、本業に集中できる時間を確保しやすくなります。

・会計ソフトのコストを抑えられる: それぞれが独立して開業する場合、原則として2人分の会計ソフトの契約や管理が必要になります。専従者であれば1人分の契約で済みます。

管理や申告の手間がシンプルになる点は、心理的にも実務的にも大きなメリットといえます。

3-3.【デメリット】専従者側は他の仕事が原則できない

専従者となった場合、原則として他の仕事(パート・アルバイト・副業など)はできなくなります。

専従者として認められるためには、「その事業に専ら(もっぱら)従事していること」が要件であるからです。

「専ら従事」とは、基本的にはその事業の稼働時間中、フルタイムで働いているような状態を指します。

継続的に別の給与収入(パート・アルバイト代など)があると、専従者としての実態がないとみなされ、支払った「専従者給与」そのものが経費として認められなくなるリスクがあります。

例外として、本業に支障のない範囲での短期間・単発のアルバイトなどは「一時的な手伝い」として認められるケースもあります。しかし、明確な「週〇時間まで」といった一律の基準がないため、税務上の判断は難しくなるでしょう。

そのため、「パートやアルバイトなどを継続して行いたい」といった場合には、専従者にせず「家族が無償で事業を手伝っている」形にした方が適しているケースもあります。  

3-4.【デメリット】配偶者控除が使えなくなる

青色申告で「青色事業専従者給与」を必要経費に算入する場合や、白色申告で「事業専従者控除」を適用する場合、配偶者は同一生計配偶者等に該当せず、事業主は「配偶者控除」や「配偶者特別控除」を適用できません。

そのため、事業の利益が小さい段階では、専従者給与による所得分散のメリットが出にくい一方で、配偶者控除(または配偶者特別控除)が使えない影響が相対的に大きくなり、結果として「配偶者控除等を適用した方が世帯全体の手残りが多くなる」ケースもあります。

どちらが有利かは、事業主の所得水準と、実際に支払う専従者給与額、そして配偶者側の課税・非課税の見込みなどを総合して判断する必要があります。


4.夫婦それぞれ個人事業主として開業するメリット・デメリット

夫婦が別の事業を行なっている場合、もしくは同業種であったとしてもそれぞれ個別に仕事を受注している場合は、夫婦それぞれが個人事業主として開業する形が基本となります。

税制上のメリットもありますが注意すべき点もありますので、見ていきましょう。

4-1.【メリット】夫婦それぞれで青色申告のメリットを最大限活用できる

夫婦がそれぞれ独立した個人事業主として開業することで、二人とも青色申告のメリットを最大限活用できます。

青色申告特別控除が各々適用される: e-Taxによる申告などの要件を満たせば、二人とも最大65万円の青色申告特別控除を受けられます。世帯全体で見れば最大130万円の所得控除となり、専従者給与を支払うよりも所得圧縮の効果が大きくなるケースがあります。

・事業経費も各々計上できる: それぞれの仕事に必要なPC、備品、研修費などを、それぞれの事業経費として明確に計上できるため、将来的に事業を拡大・分離していく際にも管理がスムーズです。

4-2.【デメリット】開業は実態がないと否認されることもある

夫婦それぞれが個人事業主として認められるためには、名義だけでなく、「それぞれが独立した事業を行っている実態」が必要です。

たとえば、生計を一にする夫婦の場合、夫の事業から妻へ「外注費・報酬」等の対価を支払っても、所得税法56条の対象となり、原則として夫側の必要経費に算入できません。

なお、妻が別の事業を営んでいる場合でも、同一生計で夫の事業から支払う対価は、56条の対象となり得る点に注意が必要です。

単に「節税のために名義を分けた」ように見える形だと、収入は実際に稼いだ側のものとして扱われることがあるため、業務の実態に沿った形を選ぶことが大切です。

4-3.【デメリット】事務などの負担が増える

夫婦それぞれが個人事業主になる場合、帳簿付け・確定申告・各種届出などは全て二人分必要になります。

<夫婦それぞれが開業することによって増える負担>

・事務作業の重複:帳簿付け、領収書の整理、決算作業、確定申告が全て「二人分」発生します。
・維持コストの増加: 会計ソフトのライセンス料や、税理士に依頼する場合の顧問料・申告費用なども、二人分必要になるのが一般的です。

事業規模や業務内容によっては、専従者制度の方が管理しやすいケースもあります。


5.事業規模が拡大したら法人化も視野に入れよう

利益が安定して増えてきたら、個人事業主のまま続けるよりも、法人化して夫婦で役員報酬を受け取る形のほうが適しているケースがあります。

5-1.事業所得800万円〜900万円前後が一つの目安になる

法人化の検討ラインとして、事業所得(利益)800万円〜900万円前後がよく目安として挙げられる水準です。

個人の所得税は累進課税なので、所得が増えるほど税率が上がります。一方、法人の税金は所得税ほど急に税率が上がりにくく、一定の水準を超えると法人化で税負担を抑えられる可能性が出てきます。

ただし、実際の有利・不利は、役員報酬の額、配偶者の収入状況、社会保険料、税理士費用などで変わるため、試算が必要となります。検討するタイミングの一つとして考えておきましょう。

5-2.【メリット】所得分散ができる

法人化すると、個人事業主とは課税される税金の体系が変わり、損金(経費)として認められる範囲や、役員報酬の設計の選択肢が広がるため、税負担の軽減につながる場合があります。

具体的には、

・役員報酬や給与を経費に算入できる
・受け取る側は給与所得控除の適用対象となる
・家族への支給により所得を分散し、世帯全体の税負担が軽減につながる場合がある

などが挙げられます。

ただし、役員報酬額や支給方法は税務上の要件を満たす必要があります。

5-3.【メリット】会社の健康保険・厚生年金に加入できる

法人は原則として健康保険・厚生年金の適用事業所となるため、役員報酬を受け取る夫婦であれば、会社の健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)と厚生年金に加入する形に原則なります。

保険料負担が増える場合はありますが、将来受け取れる年金額や、万一のときの遺族年金・障害年金など、保障が手厚くなる面があります。

5-4.【デメリット】固定費と事務負担が増える

一方で、法人化にはデメリットもあります。

<法人化によるデメリット>

・維持コスト(法人住民税の均等割)の発生:法人住民税のうち「均等割」は、赤字でも毎年かかります。

・健康保険・厚生年金の保険料負担:法人化した場合の健康保険料・厚生年金保険料は、原則として会社と本人で折半です。そのため、会社負担分の保険料が発生し、会社のキャッシュフローが減る可能性があります。

・事務手続き等の増加:法人化すると、設立後も決算・申告、役員報酬の設計、社会保険の手続きなどが必要になり、個人事業より事務負担が増えるのが一般的です。
状況によっては税理士などの費用も発生します。

売上や利益がまだ安定していない段階で法人化すると、コスト負担だけが先行してしまうこともあります。

そのため、法人化は単に「節税できそうだから」という理由だけで判断せず、 事業の安定性や将来の見通しを踏まえて、専門家によるシミュレーションを受けた上で検討することが重要です。


6.まとめ 夫婦で事業をする形は「今の実態に合ったもの」を選ぼう

夫婦で事業をするにあたって大切なのは、「今の実態に合った形」を選ぶことです。

事業の規模、夫婦それぞれの役割、そして子育てや介護といったライフステージの変化によって、最適な選択肢は変わっていきます。

本記事で紹介した3つのパターンのメリット・デメリットを参考に、ぜひ夫婦で「自分たちの今の立ち位置」と「数年後のビジョン」を話し合ってみてください。

実態に基づいた正しい選択をすることが、事業も家庭も長く、幸せに続けていくための第一歩となります。

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