
「合弁会社を設立したいが、トラブルなく進めるには何を押さえておけばいいのだろうか」
合弁会社の設立は、複数の企業が異なる目的や狙いを持ちながら一つの事業を進めるため、トラブルや失敗の要因も多岐にわたります。特に、「両社の思惑をどのように事業の形や収益構造に落とし込むか」が、成否を分けるポイントです。
本記事では、合弁会社設立を成功に導くために、次の3つの観点から解説します。
- 合弁会社設立を失敗させないための基本的な考え方
- 合弁会社設立の8つの実行ステップ
- 財務面から全体を支えるFASの役割
合弁会社設立を「形だけの協業」に終わらせず、成果を生むパートナーシップにするために、押さえておきたい実務上のポイントを整理していきましょう。
“合弁会社とは”
複数の企業が出資し、それぞれの強みを持ち寄って「共同で事業を運営する仕組み」を指します。
会社法上「合弁会社」という特別な形態があるわけではなく、多くの場合は株式会社や合同会社の形をとります。
目次
1.合弁会社設立を失敗させないためには
合弁会社は、立場や目的の異なる企業が協力し、共通の事業を形にするための仕組みです。その分、単独設立とは異なり、意見の食い違いや判断基準のズレからトラブルが起こりやすいのが実情です。
《合弁会社設立における目的の違いの一例》
| ケース | 主な目的の違い |
|---|---|
| 新市場への参入を共同出資で実施する (共同投資モデル) | A社:「リスク低減」 B社:「新規成長機会」 |
| 資金力のある企業と、技術やノウハウを持つ企業が組む (資本 × 技術の結合) | A社:「技術やノウハウの獲得」 B社:「資金調達・販路拡大」 |
| 現地ルールや取引慣行に対応するために現地企業と連携する (現地パートナーとの協業) | 本社側:「海外市場開拓」 現地側:「ノウハウ・雇用確保」 |
“トラブルの一例”
- 出資比率は対等でも、意思決定が割れて事業が前に進まない。
- 一方が利益重視、もう一方が雇用やブランド維持を優先し、投資判断で対立してしまう。
- 契約時に定めたルールがあいまいで、撤退や配分をめぐる争いに発展する。
こうしたトラブルを未然に防ぐには、違いを前提に、制度やルールをコントロールする仕組みを設計することが重要です。
次章では、これらを前提に、合弁会社設立の「8つの実行ステップ」を見ていきます。
2.合弁会社設立の8つの実行ステップ
合弁会社の設立について、ここでは共通する流れを8つのステップに整理して解説します。
ステップ1:目的を明確にする
ステップ2:パートナーを選ぶ
ステップ3:出資比率を設計する
ステップ4:締結条件を確認する
ステップ5:合弁契約を締結する
ステップ6:設立プランを策定する
ステップ7:設立を完了する
ステップ8:設立後の運営体制を整える
※実際は目的や業種によって進め方が異なることがあります。
2-1.ステップ1:目的を明確にする
合弁会社設立の出発点は、まず「なぜ合弁を行うのか」という目的の明確化です。
1章で触れたように、合弁会社設立の際には、両社の目的が異なることが多いです。目的が曖昧なまま進めると、後の出資条件や意思決定の基準がブレて、合弁の設計全体が不安定になります。最初に目的を言語化し、狙いを整理しておくことが重要です。
《目的を明確にする主な手順と担当部門》
| 手順 | 内容 | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 自社の目的を言語化する | 「なぜ合弁を行うのか」を表現する (例:新市場参入・技術獲得・リスク分散など) | 経営企画 |
| 2. 成果指標を設定する | 目的を数値と期間に落とし込む | 経営企画/財務 |
| 3. 妥当性を数値で検証する | 投資規模・利益見通し・リスク許容度などをシミュレーションし、整合性を確認する | 経営企画/FASなど |
“💡ポイント”
- 「なぜ一緒にやるのか」を言葉と数字の両面で明確にする。
- 目的は数値・期間・優先順位をセットで定義する。
- FASなど専門家の財務分析を活用し、妥当性を客観的に検証する。
2-2.ステップ2:パートナーを選ぶ
明確にした目的を踏まえ、その実現に最も適したパートナーを選定します。
相手企業の目的と自社の狙いが、現実的に両立するかを見極めることが重要です。表面的な協業条件だけでなく、「事業の方向性」「意思決定のスピード」「財務体質」など、実務に直結する要素を確認する必要があります。
特に、専門家によるデューデリジェンスを行うことで、候補企業の収益構造やキャッシュフロー、将来の投資負担を定量的に把握でき、リスクの見落としを防げます。
《パートナー選定の主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. パートナー調査 | 候補企業の事業内容・財務・評判を調査する (デューデリジェンス《DD》) | FAS・会計士など/経営企画 |
| 2. 目的の共有・すり合わせ | ・双方の狙いや得たい成果を整理する ・合弁の目的、期待効果、優先順位を明確にする | 経営企画 |
| 3. 事業仮設の設定 | 共同で取り組む範囲や進め方・期間・Exit条件などを仮設定する | 経営企画/プロジェクト責任者 |
| 4. 価値観・企業体質の確認 | 相手企業の財務体質・意思決定スピード・事業ビジョンとの相性を確認する | 経営層/経営企画 |
| 5. 法務調整 | ・NDA(秘密保持契約)を締結する ・必要に応じて意向書で検討方針を文書化する | 法務/弁護士 |
“💡ポイント”
- 「なぜ一緒にやるのか」「それぞれが何を持ち寄るのか」を明確に言語化する。
- 数値・期間・Exit(撤退・譲渡)条件を初期段階で仮置きしておく。
- 検討内容や前提条件は文書と数値で整理し、双方で共有する。
関連記事:「デューデリジェンス(DD)の目的とは?種類や手順、注意点まで」
2-3.ステップ3:出資比率を設計する
パートナー選定後、出資比率とそれに基づく経営権の設計を行います。
出資比率は資金の負担割合を示すだけでなく、議決権や取締役の指名、重要事項の決定権など、経営の主導権に直結する重要な要素です。
ただし、出資比率だけでは見えない「実質的な支配構造」も設計段階で把握しておく必要があります。
“出資比率設計の考え方”
出資比率の設計を誤ると、一方が実質的なコントロールを失ったり、意思決定が止まったりするリスクがあります。そのため、実務上はわずかな強弱をつけ、意思決定の偏りや停滞を防ぐ構成をとるのが一般的です。
また、実際の支配力は出資比率だけで決まらず、契約・人事・ガバナンス設計などによって調整することも可能です。
例1:黄金株(拒否権付き種類株)を用いて特定株主に重要事項の拒否権を付与する。
例2:取締役会構成の調整により、大株主が実質的に経営を主導できる体制を整える。
以下の方法で出資比率を設計していきます。
《出資比率設計の主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 企業価値の算定 (バリュエーション) | 各社の企業価値を評価し、出資比率の妥当性を把握する | FASなど/経営企画 |
| 2. シミュレーション | 比率ごとに利益配分・回収期間・議決権などの影響を試算する | FASなど/経営企画/財務 |
| 3. リスク・リターン分析 | 投資規模・損益分岐点・リスクなどを比較し、出資案を作成する | FASなど/財務 |
| 4. 複数案の比較検討 | 対等出資・主導出資など複数パターンを比較し、合意案を検討する | 経営層/経営企画 |
| 5. 財務・法務調整 | 法的要件や税務面を確認し、出資スキーム全体の整合性を取る | FASなど/法務/財務 |
“💡ポイント”
- 出資比率は単なる資金割合ではなく、経営権とリスク分担の設計図と考える。
- 「出資比率=経営権」とは限らず、契約・人事・ガバナンス設計などで補正できる。
- 設計段階でFASなど専門家によるバリュエーションとシミュレーションを行い、意思決定の妥当性を数値で確認する。
- 形式的な公平性よりも、意思決定が止まらない仕組みを優先して設計する。
関連記事:「バリュエーションの6つの目的と導入を検討すべき7つのケース」
関連記事:「企業価値と事業価値の違いとは?比較表でわかりやすく解説」
関連記事:「バリュエーションにおける4種類の株価算定方法について解説」
2-4.ステップ4:締結条件を確認する
設計した出資比率と経営構造を前提に、両社で具体的な締結条件を確認し、合意形成へ進みます。実務上は、出資比率の検討(ステップ3)と同時並行で行われることも多く、数値と制度を往復しながら最適な形へ固めていきます。
このステップでは、合弁の枠組みを制度として具体化し、「誰が」「どの範囲まで」「どのように決めるか」を明確にすることが目的です。
《締結条件を確認する主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 意思決定権の設計 | 拒否権・決裁プロセスの定義などを決定する | 法務/ 経営企画 |
| 2. 取締役・役職構成 | 取締役派遣数・代表権の有無、監査役の設置などを調整する | 両社経営層 人事 |
| 3. 利益配分・資金回収ルール | 配当方針や再投資方針、Exit時の評価方法などの合意を行う | FASなど/ 経理財務 |
| 4. 役割分担の明文化 | 営業・開発・人員派遣などの担当を明記する | 両社担当部門 |
“💡ポイント”
- ステップ3で設計した出資比率を前提に、制度・権限・配分ルールなどを具体化する。
- 「誰が・どこまで決めるか」を明確にし、意思決定の停滞を防ぐ。
- 契約書作成の前に、運営上の役割・ガバナンス構成を文書で明文化しておく。
2-5.ステップ5:合弁契約を締結する
締結条件の枠組みが固まったら、次に行うのが合弁契約の締結です。
この段階では、両社で合意した内容を「契約書」や「定款」といった文書に落とし込みます。両社の関係性や経営判断の基準を明確にすることで、設立後の判断基準のブレを防ぐことができます。
《合弁契約締結の主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 合弁契約書 | 出資者間の取り決めを明文化する(出資条件・議決権・配当方針・情報開示・Exit条件など) | 法務/弁護士/FASなど |
| 2. 定款 | 会社法上の必須事項を規定する(商号・目的・本店所在地・発行株式数・機関設計・公告方法など) | 法務/司法書士 |
| 3. 整合性の確認 | 契約書と定款の内容を照合して整合性を確認する | 法務/経営企画 |
| 4. ガバナンス設計 | 意思決定ルールを明文化する(取締役会・株主総会の権限分配・決裁フローなど) | 経営層/法務 |
| 5. 運営ルールの補足 | 実務上の協議や報告の仕組みを整え、内部統制の運用ルールを構築する | 法務/経営企画 |
“💡ポイント”
- 「合弁契約書=両社の合意」、「定款=会社のルール」として役割を明確に区分する。
- 将来の判断基準となる事項は口頭合意に頼らず、契約書に明文化する。
2-6.ステップ6:設立プランを策定する
契約内容が固まったら、設立プランを策定します。
合弁会社設立を円滑に実行するために「費用」と「スケジュール」を明確にし、実行可能な工程に落とし込みます。設立コストだけでなく、「初期運転資金」「将来投資」「Exit(撤退・譲渡)時の清算」までを見通しておくことが重要です。
《設立プラン策定の主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 設立コストの算定 | 登記費用・専門家報酬・設備投資・初期運転資金などを試算する | FASなど/経理財務 |
| 2. 資金調達計画の立案 | 出資・借入・補助金・グループ間融資などの資金源を整理する | FASなど/財務 |
| 3. キャッシュフローシミュレーション | 初年度~数年程度の収支予測・ROI(投資利益率)・損益分岐点を試算する | FASなど/経営企画 |
| 4. スケジュール策定 | 契約締結から登記〜営業開始までの工程表を作成する | 経営企画/法務 |
| 5. モニタリング設計 | 設立後のKPIや予算管理体制を事前に定義する | 経営企画/管理部門 |
“💡ポイント”
- 「初期費用」だけでなく「運転資金」「再投資余力」「Exit時のキャッシュフロー」なども含めて見積もる。
- スケジュールには法的手続き・監査対応・承認期間などのバッファを入れる。
- 計画段階からFAS・財務部門などを巻き込み、現実的な数字で組み立てる。
2-7.ステップ7:設立を完了する
策定したプランに基づき、設立完了のための実行段階に入ります。
この段階では、契約書・定款・税務届出などの内容を整合させ、会計・法務・税務が一体となる体制を整えることが重要です。各部門が連携し、手続きと運用の両面から仕組みを整えることで、設立後のトラブルを防ぎます。
《設立完了の主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. 登記手続き | 登記申請を行う(商号・目的・本店所在地・資本金など) | 司法書士/法務 |
| 2. 税務届出 | 法人設立に伴う税務手続きを行う(法人設立届出書・青色申告の申請・消費税・源泉所得税の登録など) | 税理士/経理 |
| 3. 銀行口座・社会保険手続き | 銀行口座を開設し、年金・労働保険などの登録を行う | 経理/人事 |
| 4. 会計方針・監査体制設定 | 会計基準や監査人を決定し、初期仕訳や内部統制の体制を整備する | FASなど/経理財務 |
| 5. 開示・報告対応 | 親会社などへの連結報告や法的開示の手続きを行う | 経理/IR/法務 |
“💡ポイント”
- 登記情報・税務届出・契約内容の整合性を最後に必ず確認する。
- 会計基準・開示ルールを親会社基準に統一し、報告の透明性を確保する。
- ルールが制度として機能するよう、内部統制・承認フローを初期に整える。
2-8.ステップ8:設立後の運営体制を整える
実際の経営をどう動かすかは「運営体制の整備」にかかっています。
合弁設立時に合意した目的や数値目標を、「日常のルール」と「KPI」に落とし込むことが重要です。経営判断を属人的な感覚ではなく、共通の数値基準と制度で運営できるようになり、両社間の認識のズレを防ぐことができます。
運営段階では、ガバナンス・人事・情報共有の仕組みを早期に確立し、定期的なモニタリングと見直しを行います。
《設立後の運営体制を整える主なアクションと担当部門》
| 区分 | 具体的なアクション | 主な担当 |
|---|---|---|
| 1. ガバナンス体制の構築 | ・取締役会や経営会議の開催頻度を定義する ・決裁権限を定義する | 経営企画/法務 |
| 2. 人事・評価制度の整備 | ・出向者と採用人員の役割分担を整理する ・評価基準を統一する | 人事/経営層 |
| 3. 情報共有・報告ルール | ・双方への定期レポートを行う (財務・事業・リスク情報など) | 経営企画/管理部門 |
| 4. KPIモニタリング | 財務・非財務KPIを定期的に確認する | FASなど/経営企画 |
| 5. Exit・再編時の準備 | ・事業再評価(再デューデリジェンス)を行う ・株式買取や再編シナリオを検討する | FASなど/法務 |
“💡ポイント”
- 「設立で終わり」ではなく「運営が始まり」。 合意した方針をルールとKPIで運営に落とし込む。
- KPI未達時や目標超過時の対応(追加出資・配当・再投資)を制度化しておく。
- 定期的にFASや外部専門家がモニタリングと再デューデリジェンス(DD)を行うと効果的。
3.FASは「財務の視点から合弁会社の設立を支える」存在
合弁会社の設立を成功へ導くためには、制度や契約の整備だけでなく、数字の裏づけと整合性の確保が欠かせません。この財務的な基盤を支えるのが、FAS(Financial Advisory Services)の役割です。
FASは、合弁会社の構想からExitに至るまで、各ステップで「数字による意思決定」を支援します。感覚的な判断に陥りやすい場面でも、データとシナリオ分析によって妥当性を可視化し、合弁会社を持続可能な形へ導きます。
《合弁会社設立におけるFASの主な支援内容》
| ステップ | 主な支援内容 |
|---|---|
| ステップ1 目的を明確にする | 目的の妥当性を数値で検証する (投資規模・利益見通し・リスク許容度のシミュレーションなど) |
| ステップ2 パートナーを選ぶ | ・買収監査(デューデリジェンス)を行う (候補企業の財務状況の調査) |
| ステップ3 出資比率を設計する | ・企業価値の算定(バリュエーション)を行う (出資比率の根拠の明確化) ・シミュレーションを行う (利益配分・回収期間・議決権などの影響の試算) ・リスク・リターン分析を行う (投資規模・損益分岐点・リスクなどの比較) |
| ステップ4 締結条件を確認する | ・配当方針や再投資方針、Exit時評価のルール設定を数値面から支援する |
| ステップ5 合弁契約を締結する | ステップ3・ステップ4での検証結果をもとに、契約書・定款の財務条項(出資条件・配当・Exit条件など)をレビューする |
| ステップ6 設立プランを策定する | ・設立コストの算定を行う ・資金調達計画の立案を支援する (出資・借入・補助金・グループ間融資など) ・キャッシュフローシミュレーションを行う |
| ステップ7 設立を完了する | ・会計方針設定に関する助言を行う ・開示や報告体制の整合性を確認する |
| ステップ8 設立後の運営体制を整える | ・財務・非財務KPIの設定およびモニタリングを支援する ・業績モニタリングと事業再評価(再デューデリジェンス)を行う ・再編・Exit時の企業価値算定、公正価値意見を提示する ・株式買取や再編シナリオの検討を財務面から支援する |
このように、FASは「財務設計のパートナー」として、合弁会社の設立を成功へ導く存在です。
4.まとめ
本記事では、合弁会社設立を成功させるためには「両社の思惑をどのように事業の形や収益構造に落とし込むか」が重要だとした上で、8つの実行ステップに沿って解説しました。
合弁会社の成功は、異なる目的やリスク許容度をいかに「制度と数字で調整できるか」にかかっています。そして、その調整を実現するための「数字の裏づけ」を支えるのが、FASの役割です。
辻・本郷 FAS株式会社では、グループ会社との強固な連携体制を活かし、初期の構想段階から実行・統合後のフォローまでを支援しています。財務データに基づく意思決定支援を含め、合弁会社設立をワンストップでサポートすることが可能です。
