相続により不動産賃貸事業を承継した場合の届け出

相続により、被相続人が営んでいた不動産賃貸業を引き継ぐことがあります。

突然、賃貸事業を引き継ぐことになり、引き継いだ相続人がどうしたらよいかわからずに戸惑うこともあると思います。

そこで、今回は被相続人の不動産賃貸業を相続した場合、相続人が行う税務署へ提出する税務に関する手続きについてまとめました。


1. 個人事業の開業届出書(税務署、都道府県)

事業を引き継いだのですから、まずは開業の届け出です。相続人の住所を管轄する税務署へ提出をしますが、提出しなくても事業は行えますし、提出をしなかったことによる罰則は設けられていません。

個人事業税にもかかわるため、事業的規模(5棟10室以上)で不動産賃貸業を引き継いだ場合は提出をしておきましょう。


2. 所得税の青色申告承認申請書

不動産所得を営む事業者は、青色申告者の承認をうけておくと種々の特典がありますので不動産収入を得ることになった場合、この申請書は提出をした方が良いです。事業を承継した相続人の提出期限は次のように決められています。

2-1.被相続人が青色申告の承認を受けていた場合

死亡した日により提出期限が異なります。

  • 死亡の日がその年の1月1日から8月31日まで・・死亡の日から4か月以内
  • 死亡の日が9月1日から10月31日まで・・その年の12月31日まで
  • 死亡の日が11月1日から12月31日まで・・その年の翌年2月15日まで

青色申告者の特典の1つに所得金額から55万円(一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円を控除するという青色申告特別控除がありますので、申請書を提出していない場合と比べて所得税が少なくなります。

なお、提出した税務署から「青色申告を承認しました」という書面などによる連絡は来ませんが、青色申告の承認を受けようとする年の12月31日(その年の11月1日以降新たに業務を開始した場合には、その年の翌年の2月15日)までに「青色申告を認めない」という処分の通知が来ない限り青色申告は承認されたものとみなされます。


3.所得税の青色専従者給与に関する届出書

事業を承継した相続人が、配偶者などへ給与の支払いを行い、給与を必要経費に算入しようとする場合は、事業を承継した日から2か月以内に提出が必要です。

もし、提出が期限内に間に合わなかった場合は事業を承継した最初の年度は専従者へ支払った給与を経費に算入することはできませんが、青色事業専従者の給与を必要経費に算入しようとする年の3月15日までに提出すれば、提出した年分の不動産所得の必要経費に算入することが可能です。

3-1.青色事業専従者の要件とは

青色事業専従者の主な要件は、以下の通りです。

  • 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること
  • その年12月31日現在(専従者又は青色申告者が年の中途で死亡した場合にはそれぞれ死亡当時)で年齢が15歳以上であること

4.給与支払い事務所等の開設等の届出書

青色専従者に給与の支払いを行うことになったり、従業員を雇って給与を支払うこととなったりした場合に提出をします。


5.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

青色事業専従者や従業員へ給与を支払う際に、給与から天引きする源泉所得税に関する届け出です。

原則として、給与から天引きをした日の翌月10日が納期限になります。給与は毎月支払うため、天引きした源泉所得税の納付も毎月行わなければならないことになり個人事業者の負担が増えます。そのため、給与を支払う人が常時10人未満しかいない場合は、給与から天引きして預かっている源泉所得税(復興所得税を含む)の納付期限は翌月10日ではなく、年2回の決められた時期に納付することができるという特例を受けることができます。

1月から6月までに支払った給与から源泉徴収した所得税等・・7月10日
7月から12月までに支払った給与から源泉徴収した所得税等・・翌年1月20日


6.被相続人の準確定申告書

相続人は、被相続人の1月1日から相続発生日までに確定した所得金額及び所得税や消費税などの税金を計算して、相続があった日の翌日から4か月以内に申告書の提出と納税をしなければなりません。これを準確定申告といいます。

相続人が準確定申告書を提出して被相続人の代わりに納税した所得税等は、相続税の計算の際の債務として控除することができますし、所得税等の還付を受けた場合には、還付を受けた金額は相続財産として計上することになります。


7.消費税の届け出

賃貸している物件の用途が居住用であれば、消費税の申告はほとんどないと思いますが、事務所や店舗など居住用以外の場合は消費税の申告が必要になることがありますので、消費税申告の要否については確認が必要です。

  1. 個人事業者の死亡届出書
  2. 適格請求書事業者の死亡届出書
    被相続人が適格請求書事業者である場合、この届出書の提出により死亡届出書の提出日の翌日、また は、死亡した日の翌日から4か月を経過した日のいずれか早い日に登録の効力が失われます。
  3. 相続人の適格請求書事業者の登録申請書の提出
    被相続人の適格請求書事業者の届け出は相続人に引き継がれません。このため、相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けるには登録申請書の提出が必要になります。

    相続のあった日の翌日から相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日、または、その相続にかかる適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から4月を経過する日のいずれか早い日までの期間については相続人を適格請求書発行事業者とみなす措置があり、この場合は被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなすこととされています。

  4. 相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表

8.消費税の納税義務の判定

消費税の納税義務の判定は、以下の3パターンに分かれます。

8-1.相続があった年

被相続人の基準期間における課税売上高(消費税の対象となる売上)のみで判定します。

ただし、事業を承継した相続人が消費税の課税事業者である場合は、被相続人の課税売上高が1,000万円未満であっても相続があった日の翌日から12月31日までの被相続人の事業にかかる納税義務は免除されませんので注意してください。

8-2.相続があった年の翌年以降

その年の前年または前々年に相続により被相続人の事業を承継した場合は、相続人と被相続人の基準期間における課税売上高を合計して判定します。

8-3.未分割の場合

法定相続人が複数人いる場合、遺産分割が確定するまでは共同して事業を承継したものとして取り扱うこととなっていますので、相続があった日の翌日から12月31日までの各相続人の納税義務の判定は、被相続人の基準期間における課税売上高に各相続人の法定相続分を乗じた金額で判定することになります。


9.まとめ

今回は被相続人の不動産賃貸業を相続した場合の、相続人が行う税務署へ提出する税務に関する手続きについてまとめました。

ご不明点等ありましたら、辻・本郷 税理士法人にお気軽にお尋ねください。

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