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社会福祉法人が行政からの補助金で資産を取得した際の会計処理

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社会福祉法人が行政からの補助金で資産を取得した際の会計処理

社会福祉法人が福祉事業を運営するためには固定資産が必要であることが多く、その取得の際に国や地方公共団体から国庫補助金等の交付を受けることがあります。

一般的な企業会計ならば圧縮記帳を行うところですが、社会福祉法人の場合はどのように処理をするかをご存じでしょうか。

本稿では社会福祉法人会計特有の会計処理について解説します。

国庫補助金等特別積立金に関する会計処理

社会福祉法人は、福祉事業を行うために施設を建設する場合をはじめとして、建物または構築物に関する施設整備助成金制度や、施設の設備または物品などに関する設備整備助成金制度などにより、国または地方公共団体から補助金の交付を受けることが往々にしてあります。
これを国庫補助金等といいます。

国庫補助金等を受領した会計年度では、当該国庫補助金等を受領したことによる収益(施設整備等補助金収益)が計上されます。
ただ、補助金により建設・取得した固定資産はすぐに費用化されるわけではないため、収益と費用の期間的対応を図ることができなくなってしまいます。

そこで、社会福祉法人会計においては、受領した補助金を施設整備等補助金収益として収益計上すると同時に、同額を国庫補助金等特別積立金として純資産の部に計上し、その相手科目で国庫補助金等特別積立金積立額として費用計上して、収益と費用を両建てにします

この補助金により取得した固定資産の減価償却費の計上に応じて、国庫補助金等特別積立金を取崩して費用の控除項目として処理することで、その後の収益と費用の期間的対応も図られます。

なお、国庫補助金等特別積立金の毎期の取崩額は、減価償却に対して補助率を掛け合わせた金額となります。以下に会計処理の例を挙げます。

【仕訳事例】

×1年10月1日にA市から施設整備に関する補助金として30,000千円の交付を受け、同年10月15日に建物60,000千円(耐用年数50年)を取得した場合(定額法・直接法)

×1年10月1日(国庫補助金等の受領と国庫補助金等特別積立金への積立)
(単位:千円)
(一般仕訳)(現金預金)30,000(施設整備等補助金収益)30,000
(資金仕訳)(支払資金)30,000(施設整備等補助金収入)30,000
(一般仕訳)(国庫補助金等特別積立金積立額)30,000(国庫補助金等特別積立金)30,000
(資金仕訳)積立金については資金仕訳なし
×1年10月15日(建物の取得)
(一般仕訳)(建物)60,000(現金預金)60,000
(資金仕訳)(建物取得支出)60,000(支払資金)60,000
×2年3月31日(減価償却費・国庫補助金等特別積立金取崩額の計上)
(一般仕訳)(減価償却費)600(建物)600
(資金仕訳)資金仕訳なし
(一般仕訳)(国庫補助金等特別積立金)300(国庫補助金等特別積立金取崩額)300
(資金仕訳)資金仕訳なし

国庫補助金等の範囲

国庫補助金等の範囲

国庫補助金等の範囲としては、固定資産の取得に充てるために交付を受けた補助金や助成金のほか、施設整備に関して自己負担部分を福祉医療機構などからの設備資金借入金で賄うような場合に、償還期間にわたって交付される設備資金借入金元金償還補助金なども含まれます。

国庫補助金等の範囲にあたる補助金や助成金の交付元は以下のとおりです。

  • 国や地方公共団体
  • 共同募金会からの配分金のうち受配者指定寄附金以外のもので施設整備の目的で受け取るもの
  • 公益財団法人JKA(自転車競技法第24条第6号)
  • 公益財団法人日本財団
  • 公益財団法人中央競馬馬主社会福祉財団

など

間違いが起こりやすい論点~設備資金借入金元金償還補助金の交付があるケース

国庫補助金等の交付を受けて固定資産を取得した場合の会計処理については前述のとおりですが、一方で、設備資金借入元金償還補助金の会計処理については注意が必要です。

当該施設整備に係る設備資金借入金の償還時期に合わせて地方公共団体から交付される設備資金借入元金償還補助金は、行政の財政状況等により資産取得時に一括して補助金全額が交付されない場合に、当該借入金の償還期間にわたって毎年交付されます。

これは、実質的には借入金を利用した施設整備に関する補助金の分割的な交付という性格を有します。

したがって、施設整備時に収受した施設整備補助金だけでなく、当該施設整備に係る設備資金借入金の償還時期に合わせて地方公共団体から交付される設備資金借入元金償還補助金も含めて国庫補助金等特別積立金の計上が必要になります。

そのため、将来にわたり交付される予定の設備資金借入金元金償還補助金を含めた修正補助率をもとに取崩額を計上する必要があります。

なお、設備資金借入金元金償還補助金については、毎年設備資金借入金の償還時に、返済額に対応した金額だけ交付を受けます。
このため、交付年度に交付額を施設整備等補助金収益として計上するとともに、交付額と同額の国庫補助金等特別積立金も計上していきます。

固定資産管理台帳上に登録する際の注意点

一方で、取得した固定資産のうち国庫補助金等はいくらだったのかの計上は、未だ交付されていない償還補助金も含めた総額とし、この総額をもとに取崩計算を行います。

その結果、設備資金借入金元金償還補助金の交付を受けている期間については、貸借対照表上の国庫補助金等特別積立金の額と、固定資産台帳上の期末の国庫補助金等の額とに差額が生じることとなります。
この差額は、将来交付される設備資金借入金元金償還補助金収益の総額と一致します。

また、行政の財政状況等によっては、設備資金借入金元金償還補助金の金額が変更となる可能性もゼロではありません。
このため、当初の取崩額の計上を行った際と償還補助金の総額とに差異が生じた場合には、その差が僅少でない限り修正を行うことになります。
以下に処理例を示します。

【仕分事例】

×1年4月1日にB市からの施設整備に関する補助金30,000千円と独立行政法人福祉医療機構からの借入金15,000千円(5年償還)をもとに、×1年4月1日に固定資産C60,000千円(耐用年数10年・定額法・直接法)を取得し、当該借入金のうち5,000千円について毎年1,000千円の償還補助金を受けた場合

(単位:千円)

経過
年数
減価
償却費
未償却残高
(資産の帳簿価額)
積立金
取崩額
未償却残高に
含まれる
国庫補助金等の額
(固定資産台帳)
償還補助金
交付額
国庫補助金等
特別積立金
(貸借対照表)
060,00035,00030,000
16,00054,0003,50031,5001,00027,500
26,00048,0003,50028,0001,00025,000
36,00042,0003,50024,5001,00022,500
46,00036,0003,50021,0001,00020,000
56,00030,0003,50017,5001,00017,500
66,00024,0003,50014,00014,000
76,00018,0003,50010,50010,500
86,00012,0003,5007,0007,000
96,0006,0003,5003,5003,500
105,999備忘価額1円3,499備忘価額1円1円

おわりに

国庫補助金等を受け取ったら、会計上正しい処理を行うだけでなく、固定資産台帳上で取得資産の登録に加えて国庫補助金等の金額の登録も行い、取崩額の計上を失念しないようにしましょう。

また、国庫補助金等特別積立金取崩額の計上は減価償却費の計上と合わせて一般的には決算整理事項ではあります。
しかし、社会福祉法人会計では月次試算表こそが月次報告書です。これらの計上は月次において概算計上を行い、期末において概算計上額と確定額との差額を調整するほうがより望ましいといえます。

執筆担当:新宿ミライナタワー事務所
 社会福祉法人部 藤江 高寛
参考資料

宮内忍・宮内眞木子『社会福祉法人の減価償却Q&A』第一法規

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