辻・本郷 税理士法人

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法人税の概要 ~SAS Formatを中心として~(ミャンマー事務所)

  • 法人税

Tax Administration Law(税務行政法)

ミャンマーの法人税の申告期間が2月1日で終了いたしました。
今回は、法人税の概要をご紹介するとともに、2020年9月期から本格的に採用されたミャンマーの法人税申告書の概要についてご紹介いたします。

申告期限

ミャンマーでは、前回ご紹介した通り、全ての事業者の課税年度は毎年10月1日から翌年9月30日までと規定されています。
申告期限は課税年度終了後3カ月以内の12月31日ですが、実務的には12月31日および1月1日が祝日のため、毎年1月2日が申告期限となります。

2020年9月期については、2021年1月2日が土曜日で週明け月曜日の1月4日が独立記念日による祝日のため、1月5日が当初の申告期限でした。
しかし、12月30日に通達が発せられ、2020年9月期の法人税に係る申告期限については、2021年1月31日まで延長されることとなりました。

ただし、当通達の発表が申告期限の1日前であったことから、実際には多くの企業は期限内に申告を済ませたのかもしれません。
このような突然の発表等も時折ありますので、ミャンマー進出の際は、専門家の支援を仰ぐのが得策でしょう。

納税主体

ミャンマーにおける納税主体は、居住法人と非居住法人に区分されます。

  • 居住法人:ミャンマー国内で設立登記された法人
  • 非居住法人:ミャンマー国外で設立登記された法人

ここでの居住・非居住の判定は、設立登記がミャンマー国内で行われたか、もしくは国外で行われたかが基準となります。したがって、支店や駐在員事務所は非居住法人として区分されます。

課税範囲

上記の納税主体のうち、居住法人に対しては全世界所得に対して課税が行われ、非居住法人については国内源泉所得に対して課税が行われます。

自己申告制度の概要

以前のトピックスでお伝えした通り、従来、ミャンマーではOAS(Office Assessment System)と呼ばれる実質的な賦課課税制度が採られていましたが、この度SAS(Self Assessment System)と呼ばれる自主申告制度が始まりました。
2020年9月期のSAS申告書の概要は以下の通りです。

申告書の構成

申告書は全8頁です。1頁目に法人名や所在地等を記載し、2頁目から最後の8頁目までがPART AからGに分けられ、決算書の内容の記述や申告調整項目の記述を行い、8頁目の最後に納税者と申告書の作成者の署名欄があるという構成です。

<PART A~PART C>

納税者の本業に関する収益・費用をPART A、不動産所得に関する収益・費用をPART B、その他の所得に関する収益・費用をPART Cに記載します。
この欄に記載する収益および費用の金額は税務上の金額となるため、減価償却超過額等の税務調整が生じている場合には、会計上の金額と差異が生じます。

固定資産や不動産の売却によって生じるキャピタルゲインについては、これらの所得とは分離して課税(税率10%)が行われるため、上記PART AからPART Cには含めません。
なお、キャピタルゲインについては、別途資産の売却日から1カ月以内に申告・納付をする必要があります。

<PART D>

このパートでは課税所得の計算が行われます。
まず初めに、上記PART Cまでで3つに区分した所得が合算されます。次に、今般の新型コロナウイルス感染症影響下における救済策として2020年6月17日に発表された各種の所得控除に関する記載欄があり、上記の合計所得から控除します。

この計算結果から繰越欠損金(ミャンマーでは過去3年分が繰越対象)の金額、MIC認可や経済特区に関する所得、ODA関連所得を控除後の金額から、さらに、控除可能な寄付金の額を控除することにより、課税所得が算出されるという構造です。

<PART E>

このパートではPART Dで算出して課税所得をもとに、税額の計算を行います。
税率は課税所得に対して一律25%です。ここから、四半期納税による前払法人税や、源泉税、外国税額、繰越還付金額を年税額から控除した後に、2020年9月期については今般の新型コロナウイルス感染症影響下における救済策に係る税額控除を差し引いた残額が納付すべき税額となります。

差し引いた金額がマイナスになった場合には、当該金額については翌事業年度の税額から控除するか、還付を希望するかを選択することができます。
ただし、従来は還付がなかなかされないという事情もあったため、還付を希望しても実際に還付されるかは未知数です。

<PART F>

このパートでは、前事業年度および当事業年度の貸借対照表に記載されている金額を、申告書の様式に従って記載します。
記載項目は、流動資産から繰越利益剰余金まで貸借対照表に記載されているほぼすべての勘定科目が対象となります。

<PART G>

このパートは、日本の法人税申告書別表4に似ており、会計上の損益から税法上の調整を加えて、税務上の損益を算定するという流れです。

このように、SASの導入により形式的には自主申告制度が始まり、以前に比して、納税者にとっての予測可能性が向上し、法的安定性も一定程度確保されました。
しかし、形式的には申告方法は変わりましたが、申告書の根拠となる税法が根本的に変わったわけではないため、納税者側の不安が完全に除去されたとはいえないでしょう。

簡単な例が、PART A~PART Cでご紹介した減価償却です。
ミャンマーの税法においても、減価償却超過額は前述のPART Gにより会計上の損益に加算されますが、加算により生じた差異が将来どうなるのか(別途、納税者が減価償却表等を作成して申告書に添付して提出すれば解決するのか、もしくは、当該差異は永久差異となるのか)は定かではありません。
もし、永久差異となるのであれば、2010年時点のIFRS(国際会計基準)を基礎とした会計基準であるMFRS(Myanmar Financial Reporting Standards)によって財務諸表を作成することとしていること自体の税法との整合性が危うくなります。

これを防ぐ現時点での現実的な選択肢としては、税法上の耐用年数を採用することにより差異が発生しないようにすることが考えられます。

おそらく、これから運用が進んでいくにしたがって、このような不備を含めたノウハウが蓄積され、税法が整備されていくものと思われます。
徐々に環境は良くなってきてはいますが、ミャンマー進出にあたっては、会計事務所等の専門家に支援を依頼されることをお勧めいたします。

(執筆担当:ミャンマー会計事務所 平井 琢磨)

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