税のギモンに答えます~クリニック開業初年度にかかる税金はどんなものがある?
- 税務・会計
- 医療法人・クリニック

過去の税務トピックスでは、独立を検討している勤務医の先生向けに「そろそろ独立!クリニック開業までのスケジュールや手続きは?」というタイトルで開業時向けの記事をお届けしました。
開業までの1年間には開業地の選定から資金調達、各種申請、スタッフ募集、そして広告宣伝などさまざまな過程を乗り越えてこられたかと思います。
いざ開業した初年度の院長を待ち受けているのは、日々の診療だけではありません。
スタッフの給与計算、源泉徴収、そして確定申告に向けた帳簿付けといった、膨大な事務作業が山積しています。
税金に関する手続きはシビア?
なかでも「税金」に関する手続きは、提出期限を1日過ぎるだけで優遇措置が受けられなくなるなど、非常にシビアな側面を持っています。
本稿では、多忙な開業1年目を乗り切るために、いつ、どのような税務対応が必要になるのか、開業の流れと役所への届出、消費税の仕組み、そして給与事務のポイントを解き明かしていきます。
開業後の税のギモン①:
どのような税金が発生しますか? その納付期限や申告時期はいつまで?

勤務医時代は勤務先が税金を給与天引きし、年末調整もしてくれましたが、開業後は税金はもちろん、従業員の給与に対して預かった税金も、ご自身で所定の時期に納付・申告しなければなりません。
納税も申告も期限に遅れるとペナルティがありますし、資金繰り上も納税時期・金額は重要になります。
次の項に、1年のうちに支払う税金を表にまとめました。いつ頃にどんな税金の納付があるのか、あらかじめ把握しておくとよいでしょう。
院長個人の所得にかかる税金(所得税・住民税・事業税)
その年の診療所の収入から経費を引いた儲けを「事業所得」として、他の所得とまとめて確定申告し、翌年3月15日までに所得税を納めます。
1年間の税金が一定額以上の場合、予定納税として前年税額をもとにした額を分割して7月31日と11月30日までに前払いします。 確定申告をすれば住民税の申告は必要なく、市区町村から届いた納税通知により年間4期に分けて納付します。
診療収入の内容や収入額により消費税や事業税(社会保険診療以外の収入に対してかかります)がかかることがあります。また、不動産等をお持ちの場合には固定資産税も納めます。
消費税については重要な項目なので、次の項で詳しく解説します。
従業員の給与から預かる「源泉所得税」の納付
その他、従業員の給与や賞与から預かった源泉所得税を翌月10日までに納付します。
なお、従業員が常時10人未満の場合は「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで年2回に分けて納付することができます。
| 税金の種類 | 対象・内容 | 納付・申告期限 |
|---|---|---|
| 所得税 | 1年間の事業所得(収入-経費)に対する税金 | 翌年3月15日まで |
| 所得税(予定納税) | 前年税額が一定以上の際、所得税を前払いする制度 | 7月31日、11月30日 |
| 住民税 | 確定申告に基づき市区町村が計算。通知が届く | 年4回(通常6月・8月・10月・翌1月) |
| 事業税 | 社会保険診療以外の収入に対してかかる税金 | 原則8月、11月 |
| 消費税 | 診療収入の内容や額に応じて課税される | 翌年3月31日まで(個人の場合) |
| 固定資産税 | 所有する土地や建物(不動産等)にかかる税金 | 各市町村の定める納期(年4回) |
| 源泉所得税 | 従業員の給与・賞与から預かった所得税 | 翌月10日まで |
開業後のギモン②:
医院・クリニックでも患者様から消費税をお預かりするものですか?
消費税についてはモノを購入した際に支払わなければならない税金、という程度で、勤務医時代にはあまりなじみがなかったかと思います。開業後は、経営において重要なウェイトを占める税目となります。
診療所の収入には、消費税が「かかるもの」と「かからないもの」が混在しています。
具体的にどのような収入に消費税がかかるかを表にまとめました。これらは、窓口で患者様から消費税をお預かりすることになります。
| 消費税がかかるもの | 消費税がかからないもの |
|---|---|
| 健康診断 | 社会保険診療 |
| 診断書作成 | 公費負担医療 |
| 予防接種 | 労災 |
| 自動販売機の売上 | 自賠責 |
| 物品の売上 | 学校医等の報酬(給与所得) |
| 駐車場の賃貸収入 | - |
なお、学校医等の報酬は「給与所得」となり消費税はかかりません。
一方、医院の敷地内に自動販売機を設置したり、カウンターで歯ブラシなどの物品を販売した場合の売上や、駐車場を貸したことで得られる収入などは、消費税がかかるものとなります。
消費税の免税期間 ~ 開業後2年間は消費税を納める義務なし
患者様からお預かりした消費税は、原則として開業後2年間は納める義務がありません。
これは、消費税を納める必要があるかどうかを判定するための「基準期間」が設けられており、それが現時点から2年前の年になるためです。
3年目以降は、その基準期間における「消費税のかかる収入」が年1,000万円を超えているかどうかが境目になります。もし1,000万円を超えた場合は、その翌年の3月31日までに申告と納税を行う義務が発生します。
[例]令和8年の「消費税のかかる収入」が1,000万円を超えた場合:
2年後の令和10年が課税対象の期間となり、令和11年3月31日までに消費税の申告・納税が必要。
消費税のかかる収入が5,000万円以下の年は簡易課税制度が活用できる
前々年の「消費税のかかる収入」が5,000万円以下の年は、簡易課税という簡便的な方法を選ぶこともできます。
本来であれば、日々の買い物や経費で支払った消費税を一つずつ細かく集計しなければなりません。
しかし、小規模な事業者にとってその事務負担は非常に重いため、「売上の種類に応じて、あらかじめ決められた一定割合(みなし仕入率)を支払ったものとみなして」より簡単に納税額を計算できる中小事業者向けの特例ルールです。
簡易課税制度を選択する場合には、適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日まで(新規開業の場合は、その事業年度末まで)に届出の必要がありますので、税理士等にご相談ください。
価格表示は税込価格が義務
消費税法に基づき、令和3年(2021年)4月から価格の「総額表示」が義務付けられています。
そのため、自由診療や物品販売といった「消費税のかかる収入」については、患者様に金額を提示する際、あらかじめ消費税を含めた「税込価格」を表示するようご注意ください。
企業(事業主)からの入金がある場合は検討したい、インボイス制度
インボイスとは、正確には「適格請求書等保存方式」といい、従来の請求書に以下の2つの情報が追加されたものを指します。この請求書を発行するには、インボイス事業者として登録申請する必要があります。
- 登録番号(「T+13桁の数字」の事業者番号)
- 適用税率と消費税額(8%と10%を明確に分ける)
医院・クリニックもインボイス登録を検討すべき?
医院・クリニックがインボイス登録をすべきかどうかは、「売上の中身」と「取引先」によって決まります。結論からお伝えしますと、「保険診療がメインの一般的な医院・クリニックであれば、急いで登録する必要はない」ケースがほとんどです。
判断基準を以下の表に整理しました。
登録しなくてよいケース(多くの医院・クリニック)
日本の医療の大部分を占める「保険診療」は消費税がかからない「非課税売上」です。
| 患者様が個人 | 患者様は医療費について消費税の控除(仕入税額控除)を申告することはありません |
|---|---|
| インボイスの影響ゼロ | 窓口で発行する領収書がインボイス(適格請求書)でなくても、患者さんが損をすることはありません |
[結論]保険診療のみ、あるいは個人向けの自費診療(美容など)がメインなら、登録するメリットはほぼありません。
登録を検討すべきケース
以下のような「企業(事業主)からの入金」が一定以上ある場合は、検討が必要です。
| 産業医報酬 | 契約している企業から「インボイスを出してほしい」と言われる可能性があります |
|---|---|
| 企業健診・人間ドック | 企業が従業員の健診代を支払う際、インボイスがないと企業側の税負担が増えてしまいます |
| 校医や講演料 | 支払元が消費税を計算している法人・自治体などの場合 |
インボイス登録した場合のメリット・デメリット
売上が1,000万円以下の免税事業者が、インボイス登録をして「課税事業者」になった場合にはどんなメリット・デメリットがあるでしょうか。
メリット
| 企業取引の維持 | 産業医や健診の契約先から「インボイスが出せないなら別のクリニックに変える」と言われるリスクを防げます。 |
|---|---|
| 設備投資の控除 | 高額な医療機器(レントゲンやCTなど)を購入した際、支払った消費税を差し引いて計算できます(原則課税の場合) |
デメリット
| 消費税を納める義務 | これまで免税されていた「自費診療」「健診代」「産業医報酬」などの消費税分を、国に納めなければならなくなります。 |
|---|---|
| 企業健診・人間ドック | 企業が従業員の健診代を支払う際、インボイスがないと企業側の税負担が増えてしまいます。 |
| 事務作業の増加 | 消費税の申告が必要になり、税理士報酬が増えたり、帳簿付けが複雑になったりします。 |
「登録番号」が記載された請求書だけが、法的に「正式なインボイス」として認められます。インボイス登録については税理士等にご相談ください。
開業後の税のギモン③:
[給料編1]スタッフの給与計算をしたい。押さえておきたいポイントは?

給与は、診療所のために働いてくれたスタッフの方への報酬です。給与や賞与の支給額等の間違いは、お互いの信頼感を損なうおそれもあり、不信感を抱かれる第一歩になりかねません。
気持ちよく働いてもらうためにも、給与計算は締め日を決めてから支給日まで余裕を持った間隔(10日以上)をとり、計算を行いましょう。
徴収義務と「所得税・社会保険料」
給与計算においては、単に月給・時給・交通費の金額の算定だけでなく、源泉所得税の徴収や、診療所の人数等によっては健康保険料・雇用保険料の徴収義務が給与支払い事業者に生じます。
支給額によって徴収額も変わりますので、注意して計算しましょう。
所得税の計算をするには、通常「源泉徴収税額表(月額表)」(国税庁のWebサイト)を使用します。月額表には甲欄・乙欄があり、次の項で示す例のように使い分けることが必要です。
まずは「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出をスタッフに求めましょう
最初の給与計算を始める前に、まずスタッフの方々に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出してもらいましょう。
ただし、この申告書は1事業所にしか提出できませんので、複数箇所から給与をもらっているスタッフの方には、主たる事業所を確認して提出してもらいましょう。
- 甲欄 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員
- 乙欄 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していない従業員
給与について考える場合、社会保険労務士と税理士を使い分けましょう
給与計算・人事労務に関しては、専門家である社会保険労務士に依頼することをおすすめします。
注意すべき点は、スタッフの方がその労働の対価として支払を受けるものは金銭だけではなく、通勤手当・昼食代・借り上げ社宅家賃・社員旅行等も現物給与として課税の対象となることがあります。
こうした税金の対象となる項目については、社会保険労務士にとっては専門外になります。
必ず税理士と相談の上、金額を決めるようにしましょう。
開業後のギモン④:
[給料編2]妻に給与を払うことができますか?
ご夫婦で診察にあたったり、奥様が受付業務や事務をされているクリニックを多く見かけます。家族に対する給与は注意が必要です。
家族へ支払う給与が経費になる場合・ならない場合
生計を一にしている配偶者やその他の親族が診療所経営に従事した場合に支払われる給与は、原則として必要経費にはなりません。
しかし、青色申告者の場合、配偶者やその他の親族を「青色事業専従者」として届出を出すことによって必要経費に算入することができます。
「青色申告者」とは?
青色申告者を噛み砕いて説明すると、「税務署に対して「私はルール通りにきちんと帳簿をつけます!」と宣言し、認められた人のことを指します。
もっと噛み砕くと、「国が推奨する家計簿(帳簿)の付け方を守る代わりに、税金のボーナス(優遇措置)をもらえるライセンスを持った人」というイメージです。
どうすれば「青色申告者」になれる?
誰でも自動的になれるわけではなく、以下の2つのステップが必要です。
青色申告者の対象者であること:
事業所得(診療所経営など)、不動産所得、山林所得がある人。
届出を出していること:
原則として、その年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出し、承認を受けている必要があります。
青色申告者に課される「宿題」
税金のボーナスをもらう代わりに、以下の義務が発生します。
帳簿をしっかりつける:
いつ、誰に、いくら払ったか(あるいは受け取ったか)を記録します。65万円の最大控除を受けたい場合は、「複式簿記」という少し専門的な形式で記録する必要があります。
書類を保存する:
領収書や請求書、作成した帳簿を原則7年間(一部は5年)大切に保管しておく必要があります。
「青色申告者」になると大きな特典がある
上記の義務があるなかで、なぜ青色申告者になりたがる事業者が多いのでしょうか。
それは、白色申告(届出を出していない人)に比べて、圧倒的に「払う税金が安くなる仕組み」が用意されているからです。
| 特典名 | 内容 |
|---|---|
| 特別控除 | 利益から10万円、55万円、または65万円を差し引ける |
| 専従者給与 | 家族への給料を全額経費にできる(届け出た範囲内) |
| 赤字の繰越 | 今年の赤字を、来年以降3年間の黒字と相殺できる |
| 少額資産の特例 | 30万円未満のパソコンや医療器具などを、買った年に一括で経費にできる |
青色事業専従者給与の要件
青色事業専従者給与の要件は以下のとおりです。
| 項目 | 具体的な要件内容 |
|---|---|
| 対象者の範囲 | 青色申告者と生計を一にする配偶者、またはその他の親族であること |
| 年齢制限 | その年の12月31日現在で、年齢が15歳以上であること |
| 従事期間 | その年を通じて6ヶ月を超える期間、その事業に専ら従事していること(※年の中途での開業等の場合は、従事可能期間の2分の1超) |
| 専従の定義 | 原則として、他の仕事を持たず、その事業にのみ従事していること |
「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出
青色事業専従者給与額の必要経費算入の規定の適用を受けようとする場合、その年の3月15日までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しましょう。
新規開業の場合は、開始してから2ヶ月以内に提出しましょう。
青色事業専従者に支払う給与はいくらが妥当?
青色事業専従者に支給する額は、いくらほどが妥当なのでしょうか。
所得税法によると「その労務の対価として相当な金額であること」とあいまいな表現になっています。
しかし、金額に妥当性を持たせるために以下の点に注意して支給額を決める必要があります。
| 判断ポイント | 具体的な内容・チェック事項 |
|---|---|
| ① 勤務・執務内容 | 実際に行っている仕事の内容や責任の重さに対して、金額が適正であるか。 |
| ② 本人の属性 | 専従者の年齢、持っている資格、経験年数、従事期間などに見合った金額であるか。 |
| ③ 他のスタッフとの比較 | 診療所内で雇用している他の従業員(他人のスタッフ)の給与水準と比べて、著しく高すぎないか。 |
| ④ 同規模医院との比較 | 経営規模や収益状況が似ている他の医院・クリニックの給与相場と比べて、著しく高すぎないか。 |
一般的に専従者給与は他のスタッフと比べると、通常の業務の他、給与計算や会計業務の記帳、診療所の資金繰り等も行うという理由により高額になることもあります。
この場合には、勤怠管理等により出勤事実の証拠を残すことはもちろん、業務内容を明確にするために業務日誌の記入、会計帳簿の記帳などもしていれば、その筆跡から本人確認も行え、税務調査があった場合、勤務実態を証明するための重要な資料となります。
おわりに
クリニック・医院の開業前や開業直後について、多くの疑問や不安をお持ちの先生もいらっしゃることかと思います。
辻・本郷 税理士法人には医院・クリニック専門の部署があり、その不安や疑問を400件以上の開業支援で得た豊富なノハウをもとに、診療所開業を全面サポートしています。
開業計画の立案から開業地・物件の選定、医療機器の選定・導入、スタッフの採用まで、診療所開業までに必要な作業を豊富な開業実績に基づき、トータルでサポートいたします。
参考サイト・参考文献
- 辻・本郷 税理士法人 編著「よくわかる医院の開業と経営Q&A」 東峰書房
サービスに関するお問い合わせ
サービスに関するお問い合わせ、税務業務のご依頼などをお受けしております。
※内容によってはお返事にお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
お電話でのお問い合わせ
受付時間:9:00~17:30(土日祝・年末年始除く)
原則折り返し対応となります。
自動音声ガイダンスにしたがって、
お問い合わせ内容に沿った番号を選択してください。