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子会社からの配当と子会社株式の譲渡が「租税回避」?

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子会社からの配当と子会社株式の譲渡が租税回避?

国際税務と一口にいっても、「移転価格税制」「タックスヘイブン税制」「過大支払利子税制」「過小資本税制」などさまざまなものがあります。

今回は、令和2年度税制改正のうちの一つ、「子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避」についてご紹介します。

どこが租税回避行為なの?

「子会社からの配当」と「子会社株式の譲渡」は通常の取引として、原則、課税上の問題はない取引です。しかし、この二つを合わせると、なぜ租税回避行為につながるのでしょうか。

簡単な例を挙げてみます。

  • ① 日本の会社が、利益剰余金の潤沢な海外の会社を買収します。
  • ② 買収後、海外子会社から配当を受け取ります。株式の保有割合や保有期間によりますが、親会社にとっては、この配当金に対しては、ほとんど税金がかかりません。
  • ③ ②の配当を行うと、海外子会社の株価は当然ですが、下がります。この株価が下がっている状態で、海外子会社株式を譲渡します。買収したときよりも売却をしたときのほうが株価は下がっているので、株式譲渡損が発生します。

親会社にとっては、配当金の益金不算入(会計上は利益となるが、税務上は利益として扱わない)と株式譲渡損の二重取りをしていることになります。

一つ一つの取引は正常だと思われますが、組み合わせると、親会社にとっては税務上有利な取引になっていることがおわかりになるかと思います。

こうした行為を封じるため、税制改正において、配当金のうち益金不算入相当額を、その株式の帳簿価額から引き下げることとする、つまり株式の取得価額を減額することにより配当金の益金不算入相当額の株式譲渡損を取らせないよう措置をすることになりました。

中小企業も影響するの?

子会社の配当&株式譲渡(不要な財産を親会社に適格現物分配した後に、子会社株式を譲渡)は、中小企業のM&Aの場面においても登場するかと思います。

取引が上記と同じような流れですが、その時にも今回の税制改正の論点が出てくるのでしょうか。
細かい要件については、割愛しますが、結論として親会社(株主)がすべて内国法人・居住者ですと、今回の改正での影響はありません。

留意点

株式の譲渡をせずに配当だけの場合は、株式譲渡損は計上されないので、留意すべきところはないと思われがちです。

しかし、配当を受けた場合に、配当基準日に株式の帳簿価額の引き下げ(投資簿価修正)を行うこととなります。

投資簿価修正に伴う利益積立金額が変わった後に、組織再編やみなし配当が行われると、想定していた利益積立金額にならない(投資簿価修正により利益積立金額が減っている)ことが考えられます。
このため、海外子会社から多額の配当を受ける会社は、受取配当の益金不算入の処理だけでなく、今回の税制に該当するかどうかを慎重に判断していくことになります。

また、留保金課税の所得基準額の計算にも影響します。

決算作業中にこれらの判断を行うと煩雑になるおそれがありますので、海外から多額の配当があったときは、事前に当該税制に該当するかどうかの検討をするとよいでしょう。

ソフトバンク税制

ここまで記事をご覧になって気がついた方もいらっしゃると思いますが、今回は通称「ソフトバンク税制」について記しました。

伝家の宝刀「行為計算の否認」規定(法人の行為または計算で法人税を不当に減少させる結果が認められる場合は、税務署長が法人税を計算してもよいという規定。伝家の宝刀といわれるだけあり、めったに適用されることはない)は発動せず、国税庁は今回のスキームを封じようと税制改正まですることとなりました。

経済合理性はあり、行為計算の否認まですることは難しいと判断したのでしょう。

おわりに

毎年行われる税制改正。そのなかには、今回のような税制の抜け穴を防ぐものが含まれています。
税制改正が公表された際には、個人的には改正内容だけでなく、改正に至った経緯についても考察しています。

お客さまから節税のご相談を受けるなかで、節税なのか、脱税なのか難しい判断をする場面もあります。
正しい判断を行えるよう、税務の専門家としてセンスを磨いてまいります。

執筆担当:
法人ソリューショングループ 大勝 英輔

<参考サイト>
【国税庁】令和2年度法人税関係法令の改正の概要

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