タワーマンションの相続税評価が令和6年度税制改正で激変した理由と対策
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昨今、相続税対策として都心部のタワーマンション(タワマン)を活用するケースが注目を集めてきました。
市場価格に対して相続税評価額が著しく低いことが多いタワマンは、結果として相続税の負担を大幅に軽減できる節税対策として話題となっていました。
しかしその一方で、タワマンの評価方法が課税の公平性を損ねているという指摘があり、税務当局や裁判所の対応が徐々に厳格化していきました。
とりわけ令和4年に最高裁判所が示した判決は、今後の相続税実務に大きな影響を与えたものとなりました。
令和6年税制改正の「補正率」導入でタワマン評価が大きく変化した
そして令和6年からは評価方法そのものが見直され、「補正率」という新たな考え方が導入されました。
これにより、従来のルールでは過小評価となっていた区分所有マンションに対して、より実態に即した相続税評価を行うことが可能となりました。
今回のトピックスでは、税制改正の背景にある最高裁判決と「総則6項」の関係を解説しつつ、新たに導入された「補正率」による評価方法と計算例、そして今後の実務にどのような影響を及ぼすかについて解説します。
課税の公平性を担保する「総則6項」とは
相続税の評価は、原則として「財産評価基本通達」という国が定めたルールに基づいて算定されます。
実務上の指針として長年用いられてきたものですが、すべての財産がルール通り画一的に評価されると、一部の財産について実態とかけ離れた評価額となることがあります。
このような場合に備え、「財産評価基本通達の定めによって評価することが著しく不適当であると認められる財産については、通達によらず、その財産の状況に応じた評価をしてもよい」と特別に認めるルールがいわゆる「総則6項」であり、課税の公平性を担保するためのセーフティーネットとしての役割を果たしてきました。
区分所有マンションの評価と課題

相続税評価における問題が顕在化したのは、タワーマンションの節税に代表される事例です。
都市部において、高層・築浅の分譲マンションの高層階は、眺望やステータス性などの理由から市場価格が極めて高額であるにもかかわらず、財産評価基本通達での評価額は土地が路線価、家屋が固定資産税評価額を基に算出されるため、実勢価格の5割以下となることがありました。
これを利用して、相続直前に高層階のマンションを購入して評価額を低く抑えることで相続税を大幅に節減する手段が一般化した点を税務署が問題視し、「総則6項」を使って、実際の価格に近い金額で課税するようになってきました。
最高裁判所の判決と税制改正
この問題に大きな影響を与えたのが、令和4年4月19日付の最高裁判決です。
この事件では、納税者側が通達に基づいて区分所有マンションを評価し申告したところ、税務署は総則6項を適用して評価額を大幅に引き上げ、更正処分を行いました。
納税者は通達通りに評価したのだから、課税処分は違法であると主張しましたが、最高裁はこれを退け、「評価通達の定めによると実質的な租税負担の公平に反する場合、評価通達の定める価額を上回っても平等原則に違反しない」と判断しました。
これにより、租税負担の公平に反する場合など、通達に従った評価が著しく不適当であると認められる特段の事情がある場合には、通達によらない評価が許容されるという考え方が最高裁判所に支持されたことになります。
このことを契機に、国税庁は区分マンションに関する評価ルールの見直しを行うことになりました。
令和6年税制改正と補正率の導入
この判決を受け、令和6年1月1日以降の相続・贈与から、評価方式に新ルールが導入されました。具体的には、区分所有建物(おもにマンション)の敷地利用権に対して「補正率」を乗じることで、評価額と実勢価格の乖離を是正する制度が新設されたのです。
補正率は以下の要素をもとに区分所有の物件ごとに設定されます。
- 築年数(築浅であるほど補正率が高い)
- 総階数(階数が多いほど補正率が高い)
- 建物の階数(所在階が上層階であるほど補正率が高い)
- 敷地権割合(土地の持分が小さいほど補正率が高い)
※具体的な補正率の計算については国税庁Webサイト内「タックスアンサー No.4667 居住用の区分所有財産の評価」を参照
評価計算のイメージ(具体例)
それでは、築浅のタワーマンションを所有したと想定して、従来の評価額と補正後の評価額とを計算・比較してみましょう。
想定されるケース
- 東京都心の築5年のタワーマンション(30階建)
- 20階部分の住居を所有
- 実勢価格:1億円
- 路線価150万円/m2
- 敷地面積×敷地権割合=20m2
- 補正率:2.0(仮定)
従来の評価額
- 土地の評価額:150万円×20m2=3,000万円
- 建物の固定資産税評価額:2,000万円
- 土地と家屋の相続税評価額合計:3,000万円+2,000万円=5,000万円
補正後の評価額
補正後評価額=従来の評価額×補正率
5,000万円×2.0=1億円
補正の結果、従来の倍の評価額となり、相続税も大幅に増加することとなります。
実務上の課題と今後の対応

相続税評価における補正率の導入により、不動産による節税対策は一定程度封じられることになりました。今後は、評価額の算定にあたって建物の属性や実勢価格との整合性にも注意が必要です。
また、補正率はあくまで画一的な数値であり、必ずしもすべての物件に合致するものとは限りません。したがって、今後も実勢価格との大幅な乖離がある場合は、税務署が「総則6項」に基づく評価の修正を行う余地があります。
財産の構成や相続に向けた対策を検討する際には、評価制度の改正を踏まえた慎重な資産設計が求められます。
おわりに
相続や資産承継に関する制度は、法改正や判例の影響を受けて毎年のように変化しています。今回の評価方法の見直しも、その一つにすぎません。
辻・本郷 税理士法人では、相続税の申告業務はもちろん、不動産評価をはじめとする財産評価や相続税額の試算、贈与や保険といった将来のご相続に向けた準備まで、ワンストップでサポートしております。まずはお問い合わせください。

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