役員の分掌変更によってその地位や職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、退職金として支給した金額は、税務上も退職金として取り扱うことができます。
しかし、変更後における会社への関与状況からみて、実質的に退職したと認められない場合には、会社が支給した金額を、その役員に対する賞与として取り扱うことになります。
退職金が賞与として取り扱われると、役員に対する賞与を損金に算入するには事前の届け出が必要であるため、会社はその退職金を損金に算入することができなくなります。
また、賞与として計算した場合の源泉所得税の金額は、退職金として計算した場合の源泉所得税の金額よりも多くなります。これにより、差額分の徴収漏れを指摘されることになり、追徴課税が生じます。
さらに、受け取った役員においては、退職所得ではなく給与所得として所得金額の計算を行うことになるため、所得税および住民税の金額が増加します。
分掌変更があっても形式的には役員の身分は継続するため、退職金を支給した場合には、実質的に退職したものであることをきちんと示す必要があります。
どんな場合であれば問題ないことが認められるのでしょうか。
次に掲げる事実によって、その役員の地位または職務内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その役員に支給した退職金は、税務上も退職金として取り扱うことができます。
(1)常勤役員が非常勤役員になったこと。
ただし、常時勤務していないものであっても、代表権を有する者および代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。
(2)取締役が監査役になったこと。
ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者およびその法人の株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件のすべてを満たしている者を除く。
(3)分掌変更等のあとにおけるその役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
ただし、その分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。
※上記の退職金には原則、未払金として計上したものは含まれません(法人税基本通達9-2-32による)。
上の項でご紹介した、(1)から(3)のすべてに共通して「その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く」とあります。
経営上主要な地位を占めているか否かについて、国税不服審判所の平成29年7月14日裁決では、以下5つの観点で判断しています。
たとえば、常勤取締役から非常勤取締役に変わったとしても、取締役であることには変わりありません。
よって、変更後も取締役会に出席することになります。
取締役会の決議に参加することがあっても、取引先や金融機関との折衝や、人事や稟議の決裁など現場に関わることは「経営上主要な地位」を占めていると見られかねないため、控えるようにしましょう。
(2)の「株主等で令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件のすべてを満たしている者」は、その役員(その配偶者および、これらの者の所有割合が50%を超える会社を含みます)が5%超の株式を保有している場合に生じる論点となります。
ここでは詳細な説明は割愛しますが、取締役が監査役となったときに退職金を支給する場合には、株式の要件があることは頭に入れておきましょう。
なお、令第71条第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》は国税庁のウェブページに記載があります。この記事の終わりに、<参考サイト>としてリンクを載せていますので、参考になさってください。
経営の最前線を退き、非常勤役員になったとしても、取締役である以上は少なからず取締役会に出席し、経営に関与することにはなります。
しかし、経営陣のために良かれと思って行ったことが経営の主要部分と認定され、退職金が否認された場合、法人とその役員に大きな税負担が生じてしまいます。
通達や判例を参考に、分掌変更等により退職金を支給した役員が、実質的には退職していないと誤解されないように、ご注意ください。
<参考サイト>
【国税庁】タックスアンサー 法人税 No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人
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