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無償減資で税務メリット?!中小企業化する上場企業

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無償減資で税務メリット?!中小企業化する上場企業

コロナ禍が長引くなか、外出自粛や休業要請の影響を受けやすい業種を中心に、上場企業が資本金を減らす「減資」に踏み切る事例が増えています。

その数、2021年は6月までの半年間で、なんと90社!日本の上場企業の総数は3,900社ほどですので、わずか半年で全体の2%以上の上場企業が減資した計算となります。

また、直近で減資する企業の大半は、株主への払戻しが生じない「無償減資」により、資本金を1億円以下にするケースとのこと。

じつは資本金が1億円以下の企業は、税制上の「中小企業」に分類されるため、税制の優遇措置を受けることができるのです。

今回は、大企業が資本金を1億円以下に減資することによって享受する税務上のメリットをのぞいてみたいと思います。
なお、とくに断りのない場合、他の大規模法人と支配関係にない法人を前提に記載しています。

(1)繰越欠損金が100%使える

法人税制上、ある期に赤字(欠損金)が生じた場合には、翌期以降に生じた黒字と相殺して、課税所得を減額することができるようになっています。
この仕組みを「欠損金の繰越控除」といいます。

課税所得から控除することが可能な欠損金の額は、資本金が1億円超の企業は課税所得の50%までが限度となっていますが、これに対して、資本金が1億円以下の企業については、課税所得の全額を控除することが認められています。

たとえば、過去に大きな赤字があった法人であっても、資本金が1億円超ならば、課税所得の50%に対して法人税等が生じてしまいます。

資本金が1億円以下であれば、法人税等の負担は法人住民税の均等割額以外は生じないこととなります。
これは繰越欠損金がある企業にとっては、大きなメリットと考えられます。

(2)外形標準課税の適用から外れる

外形標準課税は、資本金が1億円超である法人を対象とした法人事業税の課税方法の一つで、その法人の産み出した付加価値額や資本金等の金額といった、法人の外形的要素に着目して課税される税金です。

給与支払額や支払賃借料といった一般管理費の支払いに対しても課税されるため、赤字決算であったとしても法人事業税が生じてしまうことが大きな特徴となっています。

この税制は、資本金が1億円以下であれば適用されないため、赤字企業は資本金を1億円以下にすることによって納税額を抑えることができます。

ただし、黒字企業は、外形標準課税の適用の有無により法人事業税の税率が変わってくることから、外形標準課税を適用したほうが納税額が低くなる可能性もあります。この点について、くわしくは税理士法人にご相談ください。

(3)その他の中小企業の特例

資本金が1億円以下の企業については、ほかにも一定の要件のもとで下記のような税制優遇を受けることできます。

  • 特定同族会社の留保金課税の適用から外れる
  • 年間800万円までの交際費が損金の額として認められる
  • 取得価額が30万円未満である減価償却資産について、損金の額への算入が認められる
  • 課税所得のうち年800万円以下の部分については、法人税率が15%となる
  • その他、試験研究費の税額控除、所得拡大促進税制、中小企業投資促進税制などに中小企業向けの優遇措置がある

おわりに

企業が減資する狙いは、一般的には税負担を軽くして、手元資金を確保することにあると思われます。
さらに踏み込むと、実質的な大企業が税負担の優遇措置の恩恵を得ることにより、税金コストの削減を進めたいという思惑も透けて見える気がします。

収束の先が見えないコロナ禍において、自粛要請により苦境に立たされている業種だけではなく、多くの企業が資本政策や資金確保に頭をひねっている姿が垣間見られたのではないでしょうか。

大企業による恣意的な「中小企業化」、今後も続くか?

中小企業に対する税制優遇は、社会政策的な性格を帯びるため、実質的な大企業が中小企業向け税制を恣意的に活用することは、もともと大きなレピュテーション(評判)リスクを伴うものでした。

そのため、大企業による節税目的と見られかねない減資は、ある程度抑制されていた経緯があります。

政府としても、大企業が中小向け税制を活用することを容認しているわけではありません。
資本金が1億円以下であっても、過去3年の平均所得が15億円を超えていたり、大企業の100%子会社の場合は、中小向け税制を適用しない措置が取られています。

ただ、資本金のような表面的な要素から企業を税制に当てはめる点については、根本的な改正が行われておらず、多くの節税狙いの減資を許しているのが現状です。

また、コロナ禍をきっかけに有名企業が減資するケースが相次いだため、減資により税負担の優遇措置の恩恵を受けること対する企業の心理的ハードルが今までにないほど低くなっているとの指摘もあります。

とはいえ、ここまで大企業による減資が増えた手前、政府としても手をこまねいているとは思えません。

今後、与党の税制調査会の俎上に上がることはあるのでしょうか?
中小企業向け税制について、どのようなメスが入っていくのかが注目されます。

執筆担当:
新宿ミライナタワー事務所
 法人ソリューショングループ

<参考サイト>
【日本経済新聞】2021年7月6日『税軽減の1億円以下減資、20年度は5割増の514社 東京』
同上 2021年7月1日『減資企業、リーマン後で最多 1~6月90社超 サービスや小売業目立つ』
同上 2021年5月14日『中小企業の一律保護見直せ 経済の新陳代謝どう進める』
同上 2021年3月7日『コロナで相次ぐ減資「大きな中小企業」税の公平性欠く』

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