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住宅ローン控除の2022年改正、得か損か?

  • 所得税

住宅ローン控除の令和4年改正、得か損か?2022年(令和4年)の税制改正の目玉の一つに、住宅ローン控除(正式名称:住宅借入金等特別控除)の改正があります。
控除率が変更されたことにより、「改悪」という意見も目にしますが、果たして得なのか、それとも損なのかを詳しく見ていきましょう。

住宅ローン減税ってどんな制度? ~改正前を例に

そもそも、住宅ローン減税とはどんな制度なのでしょうか。
改正前の数字をもとに、ざっくりいうと「個人が住宅ローンを借りて自宅を取得した場合、住宅ローンの年末残高の1%について、一定期間所得税額から控除できる」という制度です。

所得税額から控除しきれない場合は、住民税額から控除することもできます(前年の所得税の課税総所得金額の7%まで控除。136,500円を限度とする)

源泉徴収されていた税額が全額還付される方もいるほど税額へのインパクトが大きく、住宅購入を検討・購入するときには頭にいれておくべき制度でしょう。

控除の対象となる借入限度額は大きく「新築」と「中古」に分かれています。新築は「一般の住宅」と、「良質な住宅(認定住宅)」の2本立てとなっています。

なお、住宅ローン控除の適用を受けるには、所得金額に上限が設けられていることに気をつけましょう。合計所得金額が3,000万円を超えると、その年は住宅ローン控除を受けられません。

諸要件を表にまとめると以下のようになります。

要件一覧表【改正前】
借入限度額新築 4,000万円(認定住宅5,000万円)
中古 2,000万円
控除割合1%
控除期間10年間(消費税率10%適用住宅:13年)
所得要件上限3,000万円
床面積要件50㎡以上(例外あり)
適用期限2021年(令和3年)12月31日居住分(13年特例は2022年12月31日)

2022年(令和4年)改正内容 ~控除額が下がって「改悪」に?

2022年の住宅ローン控除に関する改正は、住宅の取得等をして2022年から2025年(令和7年)までの間に居住用として使った場合に適用になります。
冒頭でふれたように、巷に流れる情報では「控除額が下がって改悪だ」などという意見も目にすることもありますが、本当でしょうか。改正の内容を少し詳しくみていきましょう。

2022年改正内容

大きく分けて2つのポイントがあります。

  1. カーボンニュートラル実現に向けた措置
  2. 会計検査院による指摘への対応と、当面の経済状況を踏まえた措置

それぞれの内容をみていきましょう。

1.カーボンニュートラル実現に向けた措置

政府は「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質0にする」(出典:国土交通省)という目標に向け、住宅分野での取り組みを強化する方針を示しています。
この方針を受け、以下2つの改正が行われました。

  • (1)改正前制度では、新築住宅は、「一般の住宅」と「良質な住宅(認定住宅)」にわけて限度額を計算していますが、改正制度では、「良質な住宅」についてそのバリエーションを増やすことで、住宅性能に応じた借入限度額の見直しを行い、借入限度額も上乗せされます。
  • (2)2024年(令和6年)以降は、新築住宅については「良質な住宅」でなければ住宅ローン控除を受けられなくなります。

2.会計検査院の指摘への対応と当面の経済状況を踏まえた措置

(1)控除率が1%から、0.7%に引下げられます。そのかわり、新築の住宅に関しては控除期間が10年から13年に延長されます。

これは会計検査院が2017年(平成29年)に住宅ローン控除の適用を開始した方について実際の支払金利を調査したところ、住宅ローン控除の控除割合1%を下回る人の割合が約78%もいたことに起因します。

つまり、本来ならば住宅ローンを組む必要のない層までもが住宅ローンを組む動機づけとなってしまっており、「富裕層に対する優遇制度である」との指摘もあったことから、2022年の税制改正で適正水準にされたといえます。

(2)合計所得1,000万円以下の方については、2023年(令和5年)中に建築確認を受けた新築住宅であれば、面積の要件が従来の50㎡以上から40㎡以上に緩和されます。

3.その他

  • (1)所得税で引ききれなかった個人住民税の控除限度額が、所得税の課税総所得金額等の5%(最高97,500円)になります。
  • (2)中古住宅について、従来は一般の住宅のみが対象でした。改正制度では良質な住宅も認められ、借入限度額についても、差別化がされました
  • (3)所得要件:合計所得金額上限が3,000万円から2,000万円に引下げられます。
要件一覧表【改正後】 ※青字が改正点
居住年令和
4年
令和
5年
令和
6年
令和
7年
借入限度額新築取得・
買取再販
長期優良住宅・低炭素住宅5,000万円4,500万円
ZEH水準省エネ住宅4,500万円3,500万円
省エネ基準適合住宅4,000万円3,000万円
その他の住宅3,000万円適用なし
(注)令和5年までに新築の建築確認:2,000万円
既存住宅長期優良住宅・低炭素住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ基準適合住宅3,000万円
その他の住宅2,000万円
控除割合0.7%
控除期間新築住宅・買取再販13年
(その他の住宅令和6年以降入居:10年)
既存住宅10年
所得要件2,000万円
床面積要件50㎡
(新築で令和5年までに建築確認:40㎡
所得要件:1,000万円)

(参考)ZEH(ゼッチ):ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス
快適な室内環境を保ちながら、住宅の高断熱化と、高効率設備によりできる限りの省エネルギーに努め、太陽光発電等によりエネルギーを創ることで、1年間で消費する住宅のエネルギー量が正味(ネット)で概ねゼロ以下となる住宅をさす(参考:経済産業省「ZEHロードマップとりまとめ(概要版)」)。

確定申告時に必要な書類と、会社員が行う手続きは?

確定申告書に添付する必要書類(例)

  • 住宅借入金等特別控除額の計算明細書
  • 登記事項証明書(原本)
  • 工事請負契約書(新築)や売買契約書(中古)の写し
  • 認定長期優良住宅の認定通知書・市区町村の証明書等
  • 源泉徴収票・マイナンバーカード
  • その他(連帯債務がある場合の計算明細書等)

金融機関交付の借入金・年末残高等証明書(原本)の添付は2022年改正で不要になりました。これに代わって、銀行等に「住宅ローン控除申請書」を提出する必要がありますが、利用者の利便性は向上しています。

会社員が行う手続き ~初年度だけ確定申告が必要

確定申告が必要なのは初年度のみです。2年目以降は年末調整で処理ができるため、初年度に比べると負担はほとんどありません。
なお、自宅を購入したものの住宅ローン控除の適用を受けていない場合には、5年間さかのぼって適用を受けることができます。気づいたらすぐにお住まいの管轄内にある税務署へ相談しましょう。

住宅ローン控除の2022年改正は、どんな層にとって有利か?

控除割合が1%から0.7%となり、損したと感じる方も多い改正ではありますが、平均的な収入の世帯にとってはむしろ変化がないか、お得になる方が多い内容です。

世帯収入が多く、多額の税金を納めている方にとっては多額の控除ができるため、改正前のほうがお得でした。
しかし、配偶者や扶養対象者がいる世帯にとっては、配偶者控除・扶養控除等各種控除のおかげでそもそもの納付税額が少ないために、改正前には多くの控除対象金額が切り捨てられてしまい、せっかくの税額控除を使い切れていない方が多かったのです。

平均的な世帯収入の方は、今回の改正によって毎年の上限額が下がるため、切り捨てられる金額が少なくなる一方で、控除できる期間が長くなるため、有利になる場合があります

以下に、改正前後の規定で適用する人の属性による有利・不利の目安を記載します。

  • 改正前の制度が有利な人の具体例:世帯年収800万円以上、借入金額5,000万円以上
  • 改正後の制度が有利な人の具体例:世帯年収500万円前後、借入金3,500万円前後

おわりに

改正の全体像をみると、「高所得者への優遇をなくし、平均年収くらいの人たちに家を買ってもらうための制度」であると言えます。
住宅ローンの返済にともなう家計への負担を減らし、国内経済を活性化させるため、という住宅ローン控除制度の趣旨と照らし、より制度趣旨に沿った改正案だと考えます。

詳しくは、お住まいの地域を管轄する税務署か、辻・本郷 税理士法人へお問い合わせください。

執筆担当:沖縄事務所

<参考ページ>
「令和4年度税制改正大綱」の改正・見直し項目

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