同族会社経営者が知っておきたい「同族会社の行為又は計算の否認」リスクと適用要件

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同族会社経営者が知っておきたい「行為計算否認」のリスクと適用要件

令和7年7月、ファッション通販サイトを運営するZ社元社長による個人資産管理会社が、東京国税局から法人税法の「同族会社等の行為又は計算の否認」規定を適用して4億円の申告漏れを指摘され、修正申告を行ったというニュースが話題になりました。

節税策として恣意的なスキームを組みますと税務調査の頻度が増え、このように経費計上が否認される課税リスクが高くなります。

同族会社では一般に個人経営の色合いが強く、恣意性の強い会社経営が可能になっていることから、会社の税負担を不当に減少させる行為や計算が行われやすいと考えられます。
こうしたことを鑑みて、税負担の公平を維持するために同族会社に関しては税務上の特別な規定があり、「同族会社等の行為又は計算の否認」規定もその一つです。

同族会社の定義につきましては、2025年7月23日の税務トピックス「税務調査で問われる同族会社の親族給与、適正な支給のための留意点とは」をご参照ください。

「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定とはどんなものか

「同族会社等の行為又は計算の否認」の規定

「同族会社等の行為又は計算の否認」は租税回避を否認するための規定と言われています。租税回避は脱税ではなく、節税でもありません。

法律に「租税回避」の定義はありませんが、以前、政府税制調査会においては、「私法上許された形式を濫用することにより租税負担を不当に回避し軽減すること」と説明されています。

課税当局にとって「伝家の宝刀」とも言われている「同族会社等の行為又は計算の否認」に係る規定は、法人税法第132条に規定されているほか、所得税法第157条及び相続税法第64条にも規定されています。

法人税法における規定

法人税法第132条第1項においては、以下のように規定されています。

税務署長は、
①同族会社等の法人税につき更正等をする場合において、②その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、③その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。

法律の適用要件

この「同族会社等の行為又は計算の規定」を課税当局(税務署長)が適用して更正処分を行うためには、次の三つの要件すべてを満たす必要があります。

  • 第1に、同族会社の行為または計算であること
  • 第2に、同族会社の行為または計算であって、これを容認してしまえば法人税の負担を「不当に」減少させる結果となると認められるときであること
  • 第3に、法人が行ったその行為または計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、通常行われるであろう行為または計算によって法人税の課税標準や、法人税の額を計算すること

IBM事件判旨から理解する「同族会社等の行為又は計算の規定」

「同族会社等の行為又は計算の規定」の適用に係る課税事件となるIBM事件(平成28年2月最高裁国側敗訴)の控訴審である東京高裁の判旨が、同規定についてご理解いただくうえで役立つと思われます。

以下に判旨のポイントを4つ挙げます。

  • 「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かは、経済的、実質的に見て、不合理、不自然なものと認められるかどうかという客観的、合理的基準によって判断されるべきものである。
  • 経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引と異なっている場合を含み、このような取引に当たるかどうかは、個別具体的な事案に即した検討が必要である。
  • 法律の規定は、文理上、否認対象となる同族会社の行為又は計算が租税回避でされたことを要求していない。租税回避と認められることを常に要求し、租税回避の目的がなければ適用対象にならないというわけではない。
  • 独立当事者間の通常の取引であれば、どのような行為または計算がされたはずであるかについて、具体的主張・立証の責任は課税当局にある。

おわりに

同族会社において、節税策と思われたスキームが税務上否認されることになる「同族会社等の行為又は計算の否認」について、法人税法の側面から課税要件を解説しました。

税の負担を「不当に減少」させているとみなされるリスクを回避し、税務調査時に指摘されることを防ぐためには、適切な経理処理が重要です。国税不服審判所の裁決事例や訴訟による判例として表に出てくるのは氷山の一角だと思われます。

ほとんどは、税務調査時の国税調査官による修正申告の勧奨により修正申告書を提出していると考えられます。

万が一、判断に迷う点や不安な点があれば、顧問税理士にご相談いただくことをお勧めします。

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執筆担当: 新宿ミライナタワー事務所 審理室 米村 浩明

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