社会福祉法人の法人税とみなし寄附金制度のしくみを理解する
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社会福祉法人は、非営利で公共性の高い活動を行う法人として、一般の営利法人とは異なる税制上の取り扱いを受けています。もっとも、その中には法人税が課される「収益事業」もあり、正しい区分と経理処理が求められます。
この記事では、社会福祉法人における法人税の基本から、「みなし寄附金」制度の仕組み、会計・税務上の注意点までをわかりやすく解説します。
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉法に基づき、社会福祉事業の主たる担い手として、非営利で公共性の高い事業を行うことを目的として設立される公益法人です。
その活動は、高齢者介護、障害者支援、保育など、社会にとって不可欠なサービスを提供しており、税制においてもその非営利性と公益性が考慮された特別な取り扱いがされています。
一般の株式会社などの営利法人とは異なり、社会福祉法人はその目的からして利益の追求を主眼としていません。得られた収益は、原則として法人の運営や社会福祉事業の充実に再投資されることが求められています。この特性が、法人税、消費税、その他の税金における優遇措置の根拠となっています。
収益事業の区別
しかし、社会福祉法人が行う事業のなかには、収益を得ることを目的とする「収益事業」に区分されるものもあり、これについては一般的な営利法人と同様の課税を受けることになります。
社会福祉法人の税金を理解する鍵は、「本業である社会福祉事業」と「それ以外の収益事業」を区別し、それぞれの税務上の取り扱いを知ることにあります。
社会福祉法人の法人税
法人税は、法人が得た所得に対して課される税金です。社会福祉法人の場合、この法人税の取り扱いが最も特徴的です。
原則として、社会福祉法人は税法上「公益法人等」に該当し、本来の社会福祉事業(例:介護保険事業、障害福祉サービス事業、認可保育所運営など)から得た所得については、非課税とされています。これらの事業が公共の福祉に貢献することを目的とし、営利を目的としないためです。
法人税の課税
しかし、社会福祉法人が本来の事業の遂行に支障のない範囲で行う、収益を目的とする事業(例:不動産賃貸業、駐車場経営、特定の物品販売など)は「収益事業」に区分され、これによって生じた所得については、一般の営利法人と同様に法人税が課税されます。
この収益事業と収益事業以外を区分し、収益事業のみを申告・納税する義務があるため、法人内部での会計処理と税務申告の際には厳格な区分経理が求められます。
税法上の「収益事業」は34業種列挙されており、「収益事業」に該当するかどうかは、その事業が継続して事業場を設けて行われるかどうか、対価を得て行われるかどうか、などの複数の要件により判断されます。
あくまで社会福祉法人の「収益事業」の判定ではなく、税法上の「収益事業」に該当するかによって判定をするため、必ず行う事業やその収益に関してそれぞれ適切な区分と申告が必要です。
※このほか、公益事業や収益事業の定義や判定基準については過去の記事「社会福祉法人での公益事業や収益事業の定義や判定基準とは?」でも詳しく取り上げています。
社会福祉法人特有の制度「みなし寄附金」

社会福祉法人が税務上直面する特有の制度の一つに「みなし寄附金」があります。
これは、社会福祉法人などの公益法人が収益事業で得た所得を、本来の収益事業以外(社会福祉事業)に繰り入れた場合に、その繰り入れた額を寄附金とみなして、収益事業の所得から損金算入(経費として計上)することを認める制度です。
この制度は、公益法人の公益活動を税制面から支援することを目的としています。
みなし寄附金として損金算入が認められる条件
みなし寄附金として損金算入が認められるには、おもに以下の要件を満たす必要があります。
- 繰入の事実:収益事業会計から収益事業以外の会計(社会福祉事業会計など)へ、実際に資金が繰り入れられていること。
- 適正な経理:収益事業と収益事業以外の会計が厳格に区分され、それぞれの収支が明確になっていること。
損金算入が認められる「みなし寄附金」の金額には、上限が設けられています。みなし寄附金の損金算入限度額は以下のいずれか大きい金額となります。
- (収益事業に係る所得の金額)×50%
- 年200万円
会計・税務上の注意が必要な3点
みなし寄附金制度の適用を受けるためには、とくに以下の点に注意が必要です。
経理の厳格化
収益事業と収益事業以外の区分経理が不十分だと、税務調査でみなし寄附金の損金算入が否認されるリスクが高まります。資金の移動だけでなく、費用の配賦(共通費用の振り分け)についても合理的な基準が必要です。
決算手続き
資金を繰り入れる際、理事会などの正式な意思決定に基づき、決算書において収益事業の費用として明確に計上する必要があります。
税効果会計
収益事業に係る法人税を計算する際、繰入金が損金算入されることで将来の税金費用が減少するため、税効果会計を適用している法人はその影響を適切に処理する必要があります。
おわりに
みなし寄附金制度は、社会福祉法人が本来の活動を充実させるための重要な税制優遇措置です。この制度を適切に利用することで、収益事業の所得を効率的に社会福祉事業へ還元し、法人の公益性を高めることにつながります。
しかし、その適用には複雑な税務規定と厳格な経理処理が伴うため、専門的な知識を持った税理士などと連携し、適切な手続きを行うことが不可欠です。
私たち辻・本郷 税理士法人には社会福祉法人専門の部署があり、多くのご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
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