「106万円の壁」見直しで将来の年金にどんな影響が? 年金制度改正法の基本を解説
- 税務・会計
- 個人

年金制度が5年に一度改正されるのをご存知でしょうか?
目まぐるしく変化する社会経済に合わせた制度の機能強化、働き方やライフスタイルを踏まえた年金制度の構築、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図るために行われる定期的な制度改正です。
今回のトピックスでは、2026年6月に成立した年金制度改正法のなかから現役世代の方がとくに注目しておきたい4つの事項を抜粋してご紹介します。
改正された点
今回改正された項目は以下の通りです。本稿では赤字で示した箇所についてご紹介します。
①公的年金制度
- 被用者保険の適用拡大
- 在職老齢年金制度の見直し
- 遺族年金の見直し
- 厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引き上げ
- 将来の基礎年金の給付水準の底上げ
②私的年金制度の見直し
③その他、老齢厚生年金の配偶者加給年金の見直しなど
被用者保険の拡大(社会保険加入対象の拡大)

現行制度では社会保険の加入対象が、下記表に示す事業所の範囲と労働者の働き方によって定められています。
社会保険の加入対象となる事業所の範囲
現行制度における事業所の範囲 | 法人 | 個人事業主 (従業員5人以上) |
個人事業主 (従業員5人未満) |
---|---|---|---|
法定17業種 建設業、情報通信業、教育、医療ほか |
適用必須 | 適用必須 | 任意適用 (従業員と合意による) |
上記以外の業種 農業、飲食サービス業、警備業ほか |
適用必須 | 任意適用 (従業員と合意による) |
任意適用 (従業員と合意による) |
社会保険の加入対象となる労働者の働き方
従業員51人以上の企業等で勤務している方のうち、下記の4条件をすべて満たす場合に加入対象となります。
- ①週の勤務が20時間以上
- ②給与が月額88,000円以上
- ③2か月を超えて働く予定がある
- ④学生ではない
社会保険の適用拡大と「106万円の壁」
現行制度下では、労働者が手取り収入の減少を避けたい思いから社会保険料の負担発生を抑え、働くことを控えたり、調整するという問題点がありました。いわゆる106万円の壁といわれる要因です。
とくに最近では、最低賃金の引上げによって週20時間の労働で賃金要件を満たしてしまうため、結果的に働き控えが増えるといった現象も起こっています。企業にとっては人材不足が加速する原因にもなっています。
そのため今回の改正では、賃金要件が撤廃となりました。
なお、企業規模の要件についても段階的に撤廃される見込みです。
こうしたことから、短時間労働者も社会保険の加入が容易になり保険料の負担が発生します。
しかしデメリットだけではありません。
政府広報オンラインでは対策として、労働者を雇用する事業主向けに、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」を新設しました。新たに社会保険適用となった労働者の収入増加に取り組んだ事業主に助成されます。
在職老齢年金制度の見直し
在職老齢年金制度は、「一定額以上の報酬のある高齢者には、年金を受給しながらも年金制度を支える側に回っていただこう」という考えに基づき、年金の支給を調整する制度です。
現行制度では、賃金と厚生年金の合計が月額50万円を超えると超えた分の半額が支給停止となっていました。
例えば、月額50万円の賃金と厚生年金10万円が支給される高齢者は合計額が60万円になりますが、超えた10万円の半額の5万円が支給停止となります。
しかしながら、医療の充実などにより平均寿命と健康寿命が延びているなか、就業意欲の高い高齢者が増加していることや、人材確保や技能継承の点で企業から一定のニーズがあります。
今回の見直しでは、支給停止の基準額が月額50万円から62万円になりました。
この結果、先ほどの例では、5万円が支給停止となっていましたが、10万円満額支給となります。
高齢者層の方も、今までより働き控えをせずに実社会へ積極的にチャレンジすることができるようになります。
厚生年金保険等の標準報酬月額の上限が段階的引き上げに

標準報酬月額とは、厚生年金保険料の負担額を算定する際に使われるものです。
基本的には毎年4~6月の報酬(賃金)で算出され、賞与に関しては支給されるごとに標準賞与額が算出されます。
現行制度においては、年金の給付額に大きな差が出ないようにするためであったり、保険料の半分は事業主負担であることから月65万円が上限とされていました。それを超えても保険料の負担は増えませんでした。
こうしたことから、現在月65万円を超える賃金を受け取っている方は、賃金に対する保険料の割合が低く、老後に現役時代の収入に応じた年金を受け取ることができない状態となっていました。
そこで、今回の改正では上限額を以下のスケジュールで段階的に引き上げることになりました。
- 2027年9月に月68万円
- 2028年9月に月71万円
- 2029年9月に月75万円
この結果、賃金が月65万円を超える方は、保険料の負担が増加しますが、その分老後の年金の支給額が現役時代に見合った額を受け取れるようになります。なお、賃金が月65万円以下の方の保険料は変わりません。
私的年金制度の見直し(DB、企業型DC、iDeCoなど)
私的年金とは、公的年金の他に豊かに老後生活を送るために国民が任意で加入できる年金制度のことです。
代表的なものとしては、企業年金として確定給付型の確定給付企業年金(DB)や確定拠出型の企業型確定拠出型年金(企業型DC)、個人年金として個人型確定拠出年金(iDeCo)や国民年金基金などがあります。
これまで個人型確定拠出年金(iDeCo)への加入上限は65歳未満でしたが、働き方に左右されずに国民年金被保険者、老齢基礎年金やiDeCoの老齢給付を受給していない方は、70歳未満まで加入できるようになります。
また企業型確定拠出年金(企業DC)においても以前は加入者掛金が事業主掛金を超えて拠出することはできませんでしたが、これからは制限を撤廃し拠出限度額内で自由に枠を活用できるようになります。
おわりに
今回は、今年6月に成立した年金制度改正のなかでとくに現役世代の方に知っておいてほしい改正事項を抜粋してご紹介しました。これらについては2026年4月1日から施行されます。
今回の改正でこれまでと働き方が大きく変わる方もいらっしゃることと存じますが、まずはご自身でこれからどんな働き方をしていきたいか、老後生活を送っていきたいかを改めて考えてみると良いかと思います。
辻・本郷 税理士法人では、グループ企業とのネットワークにより会計・税務だけでなく労務や資産運用に関するサービスなど幅広く対応しております。
お悩みごとがあるようでしたらぜひお近くの事務所までご相談ください。

サービスに関するお問い合わせ
サービスに関するお問い合わせ、税務業務のご依頼などをお受けしております。
※内容によってはお返事にお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。
お電話でのお問い合わせ
受付時間:9:00~17:30(土日祝・年末年始除く)
原則折り返し対応となります。
自動音声ガイダンスにしたがって、
お問い合わせ内容に沿った番号を選択してください。