令和6年改正の中小企業向け「賃上げ促進税制」適用に関する留意点

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令和6年改正の中小企業向け「賃上げ促進税制」適用に関する留意点

令和6年度税制改正での賃上げ促進税制は、令和6年4月1日以後に開始する事業年度からの適用となります。そのため、令和7年3月決算(5月申告)から本格的に適用の検討等が必要になってきました。

そこで、本稿では改めて中小企業が賃上げ促進税制の適用をするうえで気を付けなければならない「税額控除の繰越」、「中堅企業向け及び大企業向けの賃上げ促進税制の適用」についてご案内します。
参考にしていただければ幸いです。

中小企業の賃上げ促進税制の適用要件と税額控除額

まずは中小企業の賃上げ促進税制の適用要件や税額控除の金額について簡単にまとめます。

適用要件

基本要件は①と②になり、③④⑤は税額控除額の上乗せ要件となります。

適用要件
基本要項 ①国内雇用者に対して給与等を支給している 雇用している従業員に給与等を支給している(役員等は除かれます)
②(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)/比較雇用者給与等支給額≧1.5% 今期に支給した給与金額が前期と比べて1.5%以上増加している
上乗せ要件 ③(雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額)/比較雇用者給与等支給額≧2.5% 今期に支給した給与金額が前期と比べて2.5%以上増加している
④(教育訓練費の額-比較教育訓練費の額)/比較教育訓練費の額≧5%
教育訓練費の額/雇用者給与等支給額≧0.05%
今期に従業員の研修等にかかった費用が前期と比べて5%以上増加していることに加えて、その研修等の費用が給与支給金額の0.05%以上であること
⑤くるみん認定やえるぼし認定を受けていること

税額控除の金額

税額控除額は前期と比べて今期増加した給与支給金額に、下表に示す一定の割合をかけて算出します。

なお、控除できる上限はその事業年度の法人税の20%です。

税額控除額=控除対象雇用者給与等支給増加額 × 一定の割合(15%~45%)

一定の割合(適用要件のどれを満たすかで変動します。最大45%まで)
①と②を満たす場合 15%(基本要件)
③を満たす場合 15%加算(上乗せ要件)
④を満たす場合 10%加算(上乗せ要件)
⑤を満たす場合 5%加算(上乗せ要件)

税額控除の繰越

上記で計算した税額控除額が法人税の20%を超えるために控除しきれない場合には、5年間の繰越ができます。

留意点

5年間の繰越を行う場合、以下の点に留意が必要です。

  • 赤字の場合でも税額控除の繰越が可能なので、適用要件を満たしているかの検討が必要です。
  • 繰越された税額控除金額を使用しない事業年度においても、該当の別表の提出は必要です。
  • 繰越された税額控除金額を使用する事業年度においては、給与支給金額が前年度より増加していることが要件になります。なお、増加割合の要件はありません。

中堅企業向け及び大企業向けの賃上げ促進税制の適用

中堅企業向け及び大企業向けの賃上げ促進税制の適用

賃上げ促進税制は中小企業向け、中堅企業向け、大企業向けの3種類がありますが、中小企業は中堅企業向けと大企業向けを適用することも可能です

中堅企業向けと大企業向けは、中小企業向けとは適用要件が異なります。
そのため、中小企業向けの要件を満たさない場合でも、中堅企業向けと大企業向けの要件を満たす場合がありますので、適用漏れに注意が必要です。

賃上げ促進税制における法人の区分

賃上げ促進税制では、資本金額と従業員数によって法人の区分を「大企業」「中堅企業」「中小企業」の3つに分類しています。

資本金/従業員数 従業員2,000人以下 従業員2,000人超
資本金1億円超 中堅企業 大企業
資本金1億円以下 中小企業

適用要件の違い

中小企業向け賃上げ促進税制

雇用者給与等支給額の増加割合で判定されます
今期と前期の従業員全員に対する給与金額を比較して判定することになります(基本要件は1.5%以上の増加)。

中堅企業及び大企業向け賃上げ促進税制

継続雇用者給与等支給額の増加割合で判定されます
今期と前期の24ヶ月を通して給与の支給を受けている従業員に対する給与金額を比較して判定することになります(基本要件は3%以上の増加)。

従業員全員の給与総額では1.5%以上増加の要件を満たさない場合でも、今期と前期の24ヶ月を通して働いている従業員への給与を抽出すると3%以上増加の要件を満たしている場合もあります
判定を忘れないようにすることが大切です。

おわりに

中小企業が賃上げ促進税制の適用を検討するにあたり、基本要件と改正を踏まえた留意点等をまとめました。

実際に適用する場合には、給与から除かなければいけないものや研修費として集計できる経費の範囲等の確認も必要になります。
判断に迷う場合や、お困りのことがございましたら、辻・本郷税理士法人までお問い合わせください。

執筆担当: 代々木事務所 法人ソリューショングループ 成田 翔一

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