社会福祉法人の消費税、非課税の範囲と課税売上になる取引とは?

  • 税務・会計
社会福祉法人の消費税、非課税の範囲と課税売上になる取引とは?

社会福祉法人は、社会福祉法に基づいた公益性の高い事業を展開する非営利法人であり、税制上の取り扱いは一般の営利企業とは大きく異なります。とくに消費税実務においては、社会政策的配慮から広範な非課税規定が設けられているため、「社会福祉法人は消費税がかからない」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。

しかし、すべての取引が非課税というわけではない点に注意が必要です

基準期間(前々年度)の課税売上高が1,000万円を超えると、社会福祉法人であっても消費税の納税義務が発生します。今回は社会福祉法人における課税取引の具体例と実務で迷いやすいポイントを整理して解説します。

社会福祉法人の消費税の取扱いについて

消費税法における社会福祉法人の位置づけ

消費税法において、社会福祉法人は「事業者」として定義されます。消費税法第2条第1項第4号では、事業者を「個人事業者及び法人」と規定しており、そこに営利・非営利の区別はありません。

しかし、社会福祉法人が行う事業の多くは、社会政策的な理由から非課税とされています(消費税法第6条および別表第一)

非課税とされるおもな取引

  • 介護保険サービス:訪問介護、通所介護、施設介護サービス(保険給付対象分)
  • 社会福祉事業:障害福祉サービス(居宅介護、就労移行支援など)、認可保育所の運営
  • 身体障害者用物品:義肢、盲人安全つえ、車椅子、義眼などの譲渡・貸付け

納税義務の基本原則

納税義務の判定は、「基準期間(前々年度)における課税売上高」で行います。

社会福祉法人の収入の大部分は非課税売上であるため、納税義務判定の基礎となる「課税売上高」には含まれません。

しかし、法人が行う「公益事業・収益事業」や、社会福祉事業に付随する「対価性のある取引」のうち非課税規定に該当しないものは、課税売上として計上されます。

社会福祉法人が提供するサービスの多くは非課税となりますが、その判定は「事業の種類」ではなく「個々の取引の性質」によって行われます。消費税法別表第一第七号では、社会福祉法に規定する社会福祉事業等として行われる資産の譲渡等を非課税としています。

しかし、利用者の選択に基づく付加的サービスや、非課税取引の判定から除かれる経済活動については、原則通り課税されます

代表的な例として、次のようなものが課税取引に該当します。

高齢者福祉事業者における売上

高齢者福祉事業に関する収入について、居宅介護サービス、施設サービスなどについては基本的に消費税は非課税となりますが、自己選定による交通費や、特別な居室の提供費用などの一定の収入は消費税が課税扱いとなります。

  • 訪問入浴介護の特別な浴槽水等の提供
  • 介護利用者自身が選定した特別な居室費、食事費、送迎費
  • その他利用者自身が選定した便益に要する特別な費用

就労支援施設等で製造販売する商品等

第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業における障害福祉施設において、生産活動として作業されたものは消費税の課税対象となります。

  • 洗濯、クリーニング等の委託作業
  • 喫茶店、食堂などの運営

※その他にも、事業外収益として計上する自販機の設置手数料なども課税売上となります。

土地・建物の貸付(事業用)

法人が所有する舗装された駐車場や建物を、店舗や事業用として他者に貸し付けている場合の賃料は課税売上となります。

消費税の申告が発生した場合の注意点

消費税の申告が発生した場合の注意点
masa / PIXTA(ピクスタ)

課税売上高が1,000万円を超え、課税事業者となった場合には、補助金交付を受ける公益法人等に適用される計算ルールに留意して申告を行う必要があります。

特定収入による仕入税額控除の制限

社会福祉法人の多くは、補助金、交付金、寄付金などの「対価性のない収入(=不課税収入)」で運営されています。これらは「特定収入」と呼ばれます。

消費税の計算は、受け取った消費税から支払った消費税を差し引く「仕入税額控除」を行いますが、特定収入で賄われた経費については、その分だけ控除額を減らす調整計算が必要になります(消費税法第60条第4項)。

この「特定収入の調整計算」は非常に複雑で、計算を誤ると過少申告を指摘されるリスクがあります。

簡易課税制度の検討

課税売上高が5,000万円以下の場合、事前の届出により、実際の仕入税額を計算せず、売上高に一定の率(みなし仕入率)を掛けて納税額を算出する「簡易課税制度」を選択できます。

社会福祉法人の場合、前述の「特定収入の調整計算」を回避できるため、事務負担軽減と節税の両面から有利になるケースが多いです。ただし、多額の設備投資(建替え等)がある年度は、本則課税の方が有利になることもあるため、事前のシミュレーションが重要です。

インボイス制度への対応

社会福祉法人においてもインボイス制度への対応は例外的ではなく、法人が課税事業者である場合、取引先(売却先や賃借人など)から「適格請求書(インボイス)」の発行を求められることがあります。

例えば、法人が所有する店舗物件を民間企業に貸している場合、インボイスを発行できないと、借主側の税負担が増えてしまうため、契約関係に影響を及ぼす可能性があります。

※参考:辻本郷税理士法人 税務トピックス「消費税免税事業者が検討したい、インボイス制度の対応ポイント

おわりに

社会福祉法人の消費税実務は、取引の大半が非課税であるからこそ、課税取引の判定を見落とすリスクが常に付きまといます。

とくに、納税義務が発生した際の「特定収入(法60条)」の計算は、一般企業の経理慣行とはまったく異なる複雑なプロセスです。「うちは非課税だから大丈夫」と過信せず、一度自法人の取引を精査することをお勧めします。

辻・本郷 税理士法人では、社会福祉法人特有の複雑な消費税計算や、簡易課税・本則課税の有利不利判定、インボイス制度への対応など、専門特化したサポートを行っております。

「この収入は課税になるのか?」「計算方法が合っているか不安」といった疑問がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

執筆担当: 新宿ミライナタワー事務所 社会福祉法人部 田村 翔太

参考サイト・参考文献

サービスに関するお問い合わせ

サービスに関するお問い合わせ、税務業務のご依頼などをお受けしております。

※内容によってはお返事にお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。

お電話でのお問い合わせ

0120-730-706

受付時間:9:00~17:30(土日祝・年末年始除く)

原則折り返し対応となります。
自動音声ガイダンスにしたがって、
お問い合わせ内容に沿った番号を選択してください。