重加算税はどんな場合に課される? 裁決事例を用いて具体的に解説します
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税務調査により過少申告が判明し、その原因が隠蔽や仮装行為に基づく場合は、過少申告額の35%に相当する重加算税が課されます。
初めて税務調査を受けることになった経営者様や、経理担当者の方のなかには、今まで誠実に申告をしていたとしても、重加算税が課されないか漠然とした不安を抱く方も多いことでしょう。
そこで、今回は安心して税務調査を受けられるように、重加算税について裁決事例を交えながら解説をします。
なお、今回はすでに申告書を提出している場合、つまり無申告ではない場合を前提としています。
重加算税はどんなときに課されるか(賦課要件)
国税通則法第68条第1項では、次の要件を満たす場合に、過少申告加算税に変えて重加算税を賦課することとしています。
- ①期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出又は更正があったこと(修正申告書の提出が、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない場合を除く)
- ② ③と④を納税者が行ったこと
- ③その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装したこと
- ④その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書等を提出していたこと
「隠蔽し、又は仮装し」とはどんな行為を指すのか
どのような行為が隠蔽・仮装行為に該当するかは判例や学説でさまざまな考え方が示されていますが、租税法の権威として知られる金子宏教授の解釈が有力とされており、判例でも同様の解釈を採るものが多くみられます。
ここに、隠蔽・仮装とは、その語義からして故意を含む観念であると解すべきであり、事実の隠蔽とは、売上除外、証拠書類の廃棄等、課税要件に該当する事実の全部または一部をかくすことをいい、事実の仮装とは、架空仕入・架空契約書の作成・他人名義の利用等、存在しない課税要件事実が存在するように見せかけることをいう。
(金子 宏『租税法第二十四版』p.914(弘文堂、2021) 文中の強調は筆者による)
また、国税庁は納税者ごと・調査官ごとに取り扱いに差が出ないよう、事務運営指針により税目ごとに隠蔽・仮装行為を例示しています。
[例]
| 法人税 | 二重帳簿の作成、帳簿書類の隠匿・虚偽記載等 |
|---|---|
| 所得税 | 事業の経営等を本人以外の名義または架空名義で行うこと |
| 消費税 | 法人税または所得税に不正事実がある場合 |
| 相続税 | 課税財産の隠匿 |
2つの裁決事例から学ぶ重加算税

ここからは国税不服審判所の裁決事例を見て理解を深めていきましょう。
責任のある従業員による隠蔽行為が法人の行為であると同一視された事例
(国税不服審判所(平15.12.16裁決、裁決事例集No.66 p.49))
経緯
請求人の従業員であるN氏は平成10年に経理部のマネージャーに就任しました。N氏は、会社の印鑑、通帳、さらには代表者の私印までも預けられるほどに代表者からの信頼が厚く、確定申告書の「経理責任者自署押印」欄に自分の氏名を記名、押印する立場にありました。
しかし、N氏は平成12年頃から売上代金の着服をし始め、その発覚を免れるために売上金額や売掛金の入金の一部を隠蔽するようになってしまいました。
この着服と隠蔽行為は平成14年頃の税務調査をきっかけに発覚し、重加算税の賦課決定処分がされました。なお、N氏は着服した全額を請求人に弁償したうえで、平成14年6月に退職しています。
結果
請求人は「経営者が関与していない隠蔽・仮装行為は納税者の行った行為とは言えず、重加算税の賦課決定処分は違法である」旨を主張しました。
これに対して国税不服審判所は「納税者の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている従業員の隠蔽・仮装行為は、納税者の行為と同一視される」と解釈したうえで、N氏の職務を総合的に勘案した結果、「N氏は、請求人の申告行為に重要な関係のある相当な権限を有する地位に就いている」と認定し、重加算税の賦課決定処分を適法としました。
脱税の意図の有無は重加算税の賦課決定に影響を及ぼさないとされた事例
(国税不服審判所(平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 p.62))
経緯
請求人は平成7年から平成10年の各年度において、当時の労働基準法における労働条件の制約等を免れるために、女性職員の超過勤務時間の一部※1について特別な事務処理(特定のタイムカードでの労働管理、給与台帳への不記載)を行うことで、超過給与の一部を給与手当勘定ではなく外注工賃勘定で計上をしました※2。
その後の税務調査で、その外注工賃勘定で計上した部分についての源泉徴収が漏れていることと、消費税の計算上、仕入税額控除がされていることが指摘されました。そして、請求人が行った特別な事務処理は隠蔽・仮装行為であるとして重加算税の賦課決定処分がされました。
※1 当時の労働基準法では、女性の残業時間について厳しい制限がありました。
※2 税務上は外注工賃ではなく給与手当として扱うべきであったことについては争っていません。
結果
請求人は「特別な事務処理は労働基準法の制約等を免れるためのものであって、脱税を意図した不正行為でなく、隠蔽または仮装の行為はない」と主張して、重加算税の取り消しを求めました。
これに対し、国税不服審判所は、最高裁判所昭和62年5月8日第二小法廷判決の下記の解釈を前提として、特別な事務処理を行ったことにより勘定科目を偽っていたこと等を理由に「脱税の故意まであったかどうかに関わりなく、隠蔽・仮装行為に基づいて過少申告したことが明らかである」と判断して重加算税の賦課決定処分を適法としました。
重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。
過去の隠蔽・仮装行為が発覚した場合、速やかに自主的な修正申告を
例えば、新たに経理の責任者となった場合に、前任者による隠蔽・仮装行為が見つかったときはどうすればいいのでしょうか。
賦課要件にある通り「修正申告書の提出が、調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない場合」、つまり、近い将来、調査により指摘される見込みがない時点での修正申告には、重加算税は賦課されません。速やかに自主的な修正申告をしましょう。
なお、「更正があるべきことを予知」のタイミングについてもさまざまな学説がありますので、判断が難しい場合は、まずは専門家である税理士に相談することをおすすめします。
おわりに
初めての税務調査には漠然と不安を感じる方も多いと思いますが、今まで隠蔽・仮装をせずに誠実に申告をしていたのであれば重加算税は賦課されませんので、安心して対応しましょう。
一方で、過去の申告内容に懸念があるようでしたら早めの対応が重要ですので、ぜひ辻・本郷 税理士法人までご相談ください。
参考サイト・参考文献
- 金子 宏『租税法第二十四版』p.914(弘文堂、2021)
- 【国税庁】事務運営指針
- 【国税不服審判所】平15.12.16裁決、裁決事例集No.66 p.49
- (同上)平13.3.30裁決、裁決事例集No.61 p.62
- 【裁判所】最高裁判所第二小法廷 昭和62年5月8日判決
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