辻・本郷 税理士法人
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ミャンマーにおける税務の現状と今後

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5年ぶりの総選挙

ミャンマーにおける税務

2020年11月8日(日)に、ミャンマーでは5年ぶりの総選挙が実施されました。
前回の総選挙(2015年11月実施)では、当時野党の国民民主連盟(NLD)が連邦議会の上下両院定数の86%(上院135、下院235)を獲得して圧勝、大統領選挙において国民民主同盟から正副大統領を選出し、軍政の流れを組む連邦団結発展党(USDP)からの政権交代が実現しました。

以来、国民民主連盟の党首であるアウン・サン・スーチー氏は憲法上の規定により大統領には就任していませんが、新設された国家顧問に就任し、事実上の行政府の長として政権を掌握しています。

日本企業の進出状況

前回の総選挙以降の日本企業の進出状況を、ヤンゴン日本商工会議所(JCCM)の会員企業数で見てみると、2015年3月末の222社から2020年8月末現在で416社にまで増加しています。
また、日本からの外国直接投資の額は、2015年3月期が8,574万ドルであったのに対して2020年9月期※1 は5月末時点で7億ドルと大幅に増加しております。

2019年9月期の1年間の投資額を国別で見ると、シンガポールからの投資額が突出しており、日本は8番目の投資額ですが、日本法人がシンガポール子会社等を通じて投資を行っているケースも数多く存在しますので、日本企業による投資額は、実態としては統計よりももう少し大きい金額になるものと思われます。
投資対象は、インフラ事業や労働集約型産業が多数を占め、これはJCCMの会員企業の構成とも一致しています。

足元のCOVID-19の影響により、2020年以降の経済成長率は鈍化が予測されていますが、ミャンマーについては「将来的なポテンシャルは認めるが“長期投資対象”」というスタンスの日系企業も多く、これからも日系企業の進出・投資は継続されることが予想されます。

※1 ミャンマーの財政年度は、2018年3月以降は9月決算に変更になっています。

事業環境の変化

ミャンマーの事業環境の変化

さて、日本企業の海外進出の際には、進出先の法務や税務も含めたビジネス環境調査が付き物です。
2020年3月には、約10日間にわたり憲法改正についての審議・採決が行われました。

この改正案では、軍人の固定議席の問題※2 や非常事態宣言下における国軍司令官への統治権限の移譲条項の修正などについて審議対象となりましたが、軍人議員によって135項目のうち、132項目が否決されました。憲法改正に向けた壁は高いですが、外国企業の進出にとってもミャンマーの更なる民主化の進展は大いに望まれるところです。

以前のミャンマーでは賄賂が横行しており、裁判や許認可の取得の際等に金銭等を渡す事例が存在しました。
そこで、「汚職のない社会の創設のために必要な措置を講じること」を先の総選挙での公約としたNLDは、2016年4月1日付で、具体的な金額等を明記した指示書を発表しました。
この通知のおかげか、税務の世界でも最近は一時期に比べると若干少なくなった感はありますが、以前は確定申告後の税額確定の際など、賄賂(金銭であったり、カレンダーの購入であったり、形式はさまざまです……)を要求されることが少なからずありました。

このような事例一つからも、ミャンマーでの事業運営においては予測可能性の確保が困難であることは想像に難くないことと思います。これは、税法の世界においても同様です。

ミャンマーには主要な税法としてUnion Tax Law、Commercial Tax Law、Income Tax Law、Special Goods Tax Lawが存在し、日本と同じく税制改正も行われます。

日本の場合の税制改正は、まず8月頃に各省庁等での税制改正要望の作成から始まり、税制調査会での議論や法案の国会提出などの過程を経て、翌4月に改正税法が施行されるという流れです。
その他、施行令や施行規則もありますが、法律も含めたこれらの法令は全て官報によって公布されることになっています。
また、法令解釈通達等もありますが、外部に対する法的効力の問題云々は別として、その立て付けは「行政機関内部の通達」であり、税務調査官等の国家公務員は国家公務員法の規定※3 により、この通達を守る義務があり、これに基づいて課税をおこないます。

一方、ミャンマーの場合には、憲法により課税に係る規定は連邦議会において協議および決定がされる旨が規定※4 されております。
法案の起草は、内国歳入局(Internal Revenue Department)を傘下に抱える計画・財務省(Ministry of Planning and Finance)に権限があり、その後の多段階による審査および承認を経た法案成立後には官報により公布されることになっています。

しかし、所管省庁にはほとんど法律専門家はおらず、法律の基礎的なトレーニングすら受けていない職員が法案を起草せざるをえない状況にあるようです。
また、改正のなかには、「通達」と呼ばれる上記のような審議を経ない形式で通知されるものや、公務員への周知が十分でないもの、改正の事実さえ知らされていないもの、通知前の関係各所との調整が不十分であるものも見受けられます。
「通達」と便宜上称していますが、その実態は日本の法人税法基本通達や財産評価基本通達等とは異なるようです。

現在進行形で起きている問題に対して、迅速に対応しているという点では一定の評価ができるのかもしれませんが、実務的にはこのような改正の自らの事業への影響を都度検討したうえで、関係各所の動静も観察する必要があるでしょう。

また、基本的にこれらの通達は、まずミャンマー語で公表され、英語版はその後一定期間が経過した後に公表される(英語版が出ない場合もあります)ため、外資系企業としては、この情報をいかに早期に入手するかが非常に重要です。

このように、上述した4つの税法自体が細かい規定を有していないことも重なり、税務に関する予測可能性の確保はミャンマーにおける事業運営の課題の一つといえます。

※2 立法府は下院(国民代表院)定数330名、上院(民族代表院)同168名、両議院にまたがる軍人議員(下院110名、上院56名)から構成され、憲法改正の際には重要条項の場合は、連邦議会の議員総数の75%超の賛成および国民投票による全有権者の過半数の賛成が必要となります。

※3 国家公務員法98条「職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」、同82条「職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。~中略~ 二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」

※4 第100条 法案の提出(2)「連邦政府のみが提出する権利を有する国家計画、年度予算および課税に関する法案は規定の方法に則り連邦議会に提出され、連邦議会にて協議および決定がなされなければならない。」

申告方法の変更

このような中で、外資系企業の事業運営における一筋の光ともいえるのが、法人税、商業税におけるSAS(Self Assessment System)の導入です。

従来、ミャンマーではOAS(Office Assessment System)と呼ばれる実質的な賦課課税制度が採られていたため、税務調査の必要性がなく、税務署から各年度の税額確定通知を発することで一連の税務プロセスが終了していました。
この税務プロセス終了までの時間が長いことや、税額決定の根拠が不明確であること等が、外資系企業の悩みの種でした。

2021年9月期から本格的に導入されることになったSASでは、法人税は、日本同様に、会計上の損益に加減算をして算出した税務上の所得金額に税率(一律25%)を乗じて税額を算出するという流れです。

現時点では本法である税法との整合性の観点からの疑義は申告書上に散見されますが、従来のOASと比較すると、税額を納税者自身が計算する分、予測可能性の観点からは安心材料になり得ると思われます。

ただし、SASに変更されたということは、日本のように税務調査が始まることの裏返しでもあります。
納税者としてはこれにより生じる税務リスクへの対策も急務となることが想定されます。これについては、まず日本もしくは近隣の東南アジア諸国での税務調査の方法を参考に進めることになるでしょう。

ミャンマーでは日本の国税庁の支援の下で税務行政に関する改革が進められていることもあり、日系企業の皆様にとっては、日本での税務調査の経験が税務リスクの軽減という点で有利に働くかもしれません。
まずは、税務調査に備えて、正しい経理処理を行うことを前提に、自社の経理処理の状況を確認しておくことをお勧めします。

(執筆担当:ミャンマー会計事務所 平井 琢磨)

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