ミスタープロ野球・長嶋茂雄さんの訃報から考える「相続放棄」

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ミスタープロ野球・長嶋茂雄さんの訃報から考える「相続放棄」

2025年6月3日、プロ野球界のレジェンドである長嶋茂雄さんが逝去されました。直後に再び注目を集めたのが、長男・長嶋一茂さんがテレビ番組(2019年放送)で語った「父の遺産はすでに放棄している」という言葉です。

この発言をもとに、「相続放棄」とは何か、生前に放棄できるのか、実際に手続きするときの流れ・注意点をわかりやすく解説します。

相続放棄とは

相続放棄とは、相続が始まった後に 「被相続人(亡くなった方)の財産も負債も一切引き継がない」と家庭裁判所に申し立て、法的に相続人でなかったことにする制度です(民法939条)。

  • プラスの財産もマイナスの財産も受け継がない
  • 相続順位は繰り上がり、次の相続人に権利が移る
  • 代襲相続は起こらない(放棄した人の子どもに権利は移らない)

相続放棄を検討する、よくある理由

では、どのような人が相続放棄を検討するのでしょうか。
相続放棄を検討する、よくある理由は以下の3つです。

おもな理由 具体例
多額の借金を引き継ぎたくない 被相続人の財産だけでは返済しきれない借金がある場合
相続トラブルを避けたい 兄弟姉妹の意見対立が予想される場合
財産を特定の人に集中させたい 配偶者や家業を継ぐ子にまとめたい場合

あくまでも推測ではありますが、今回の長嶋一茂さんの「生前に相続放棄をしている」という発言をされた背景には、「相続トラブルを避けたい」というお考えがあったのかもしれません。

生前に相続放棄はできない

では、長嶋一茂さんの「生前に相続放棄をしている」という発言は法的に有効なのでしょうか。
残念ながら、無効です。
被相続人が健在のうちに「相続放棄します」と宣言しても法的効力はありません

民法第915条
相続放棄の期間相続人は相続の開始を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申し立てをしなければならない。

民法915条にある「相続の開始」とは、「死亡の事実」+「自分が相続人であること」を知ったときです。
この条文より生前の相続放棄発言は単なる意思表示に過ぎないことがわかります。
相続放棄を行う場合は、相続の開始後に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。

相続放棄の手続き

相続放棄の手続き

相続が開始しているこのタイミングで、長嶋一茂さんが従来の意向通りに「相続放棄をする」と決断した場合、どのような手続きを行うのか解説します。

相続放棄は相続人1人で行うことができ、手続きもそれほど複雑ではありません。しかし、相続放棄ができる期限は相続の開始があったことを知ったときから3か月以内とされており、スケジュールが非常にタイトです。

手順1 遺産・債務の調査
手順2 相続放棄申述書の提出(相続放棄の申述)
手順3 照会書への回答
手順4 相続放棄申述受理通知書の受領

【手順1】遺産・負債の調査

相続放棄の手続きをする際は、まず遺産・負債の状況を正確に調査することから始めます。

長嶋一茂さんのケースには当てはまらないかもしれませんが、通常、相続放棄は故人の抱えていた負債が遺産よりも多い場合に検討するので、遺産・負債の状況を正確に調査する必要があります。

通帳やキャッシュカードを確認すると預貯金について調査することができ、権利証(登記識別情報)や固定資産税の納税通知書を確認すると不動産について調査することができます。

これらの資料や書類が見当たらない場合は、金融機関に照会したり名寄帳(固定資産課税台帳)の写しを請求して調査を行ってください。

【手順2】相続放棄申述書の提出(相続放棄の申述)

相続放棄申述書を家庭裁判所に提出します。(相続放棄の申述)提出する裁判所は、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

家庭裁判所まで出向き、書類を提出して行うのが原則ですが、郵送で手続きをすることも可能です。
申述先の家庭裁判所が自宅から遠方にある場合は、郵送で手続きをするとよいでしょう。

【手順3】照会書への回答

相続放棄の申述を行うと、手続き先の家庭裁判所から照会書が送られてきます。到着後速やかに回答してください。

照会書とは相続放棄の要件を満たしているか否かを確認するため、家庭裁判所側が放棄をした相続人に対して一定の事項を質問するために送る文章のことです。
以下に挙げる項目などを尋ねられます。

  • 故人の遺産の内容をどれくらい把握しているか
  • なぜ相続放棄をするか

相続人が照会書で回答した内容は、相続放棄の要件を満たしているか否かを判断するための参考資料となります。事実を正確に記載しましょう。

【手順4】相続放棄申述受理通知書の受領

照会書を返送した後、家庭裁判所で相続放棄の要件を満たしているか否かの判断を行います。
そして問題がなければ相続放棄の手続きが受理され、相続人のもとに相続放棄申述受理通知書が届きます。

この相続放棄申述受理通知書が届けば、相続放棄の手続きは終了です。

※債権者からの問い合わせ等に備える場合は、受理後に「相続放棄申述受理証明書」(有料交付)を取得してください。

おわりに

相続放棄は、相続が発生した後に、相続人が遺産や負債を受け取らない選択をするための手続きです。生前に相続放棄をすることは法的に認められておらず、相続開始後に家庭裁判所で正式に手続きを行う必要があります。

相続放棄やその他の相続手続きについて不安があれば、専門家に相談しながら進めることをお勧めします。

執筆担当: 西新宿事務所 事業開発推進本部 相続企画 川島 有希

参考サイト・参考文献

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