所有財産別にわかる相続税の納税猶予・免除の基礎知識

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所有財産別にわかる相続税の納税猶予・免除の基礎知識

相続税は原則として「金銭による一時(一括)納付」が求められます。そのため、農地や自社株など、簡単に売却できない財産を相続した場合は、納税資金の確保が大きな課題となります。

こうした納税資金の悩みを解決する有力な選択肢となるのが、「相続税の納税猶予・免除制度」(以下、相続税の納税猶予)です。

一定の要件を満たすことで特定の財産について相続税の納税が猶予され、その後も継続要件を満たしていれば、最終的に免除される制度です。

本稿では、所有財産ごとの概要など、押さえておくべきポイントを解説します。

対象財産で見る「納税猶予・免除」制度の一覧

相続税の納税猶予の規定は、農地や自社株など対象となる財産ごとに設けられています。適用要件はそれぞれ異なりますが、いずれも重い相続税負担による障害を減らし、事業や財産を次世代へ円滑に引き継ぐことを目的としています。

以下の表に対象財産に応じた6つの特例をまとめました。なお①〜④には、生前贈与で利用できる「贈与税の納税猶予・免除制度」も用意されています。

なお、各特例において、対象財産、適用・継続要件、免除の要件などがとても厳格に定められています。担保提供や利子税も必要になります。詳細については、国税庁のWebサイトをあわせてご確認ください

所有財産 相続税の制度の
目的・概要
納税猶予割合 おもな免除の
条件
①農地等
(農地・採草放牧地・準農地)
農地等の細分化や荒廃、離農を防ぎ、農業の持続的な発展と食料の安定供給を確保するための制度
農地等を後継者が相続し農業を継続するとき、一定の要件を満たせば、相続税の納税が猶予・免除となる。
農業投資価格を超える部分について100% 後継者の死亡、贈与税の特例による次世代への一括贈与など
②非上場株式等(自社株) 「法人版事業承継税制」
中小企業の事業承継を円滑に行い、経営資源や雇用、地域経済の基盤を維持するための制度

中小企業の経営者が保有する自社株式等を、その後継者が相続し、一定の要件を満たせば、相続税の納税の猶予・免除となる。
※業種を問わず利用できる(風俗営業、資産管理会社などを除く)
※特例措置(適用期限:2027(令和9)年12月末)と、一般措置(期限なし)の2制度あり
・特例措置100%
・一般措置80%
後継者の死亡、贈与税の特例による次の世代への贈与など
③個人の事業用資産
(事業用の土地・建物・機械など)
「個人版事業承継税制」
上記②の個人版として、個人の多様な事業用資産が対象

青色申告を行う個人の事業用資産を後継者が相続し、一定の要件を満たせば、相続税の納税の猶予・免除となる。
※適用期限 2028(令和10)年12月末
100% 後継者の死亡、贈与税の特例による次の世代への贈与など
④医療法人の出資持分 持分なしの医療法人への移行を促し、良好な地域医療の継続を図るための制度
出資者の持分を相続し、一定の要件を満たせば、相続税の納税が猶予・免除となる。
※適用期限 2029(令和11)年12月末
100% 移行期限までに持分のすべてを放棄した場合
⑤ 山林
(立木・土地)
林業離れを防ぎ、森林資源の保全や土砂災害の防止により、国土保全を図るための制度
山林を後継者が相続し林業を継続するとき、一定の要件を満たせば、相続税の納税が猶予・免除となる。
80% 後継者の死亡
⑥ 美術品
(国宝・重要文化財など)
美術品の次世代への確実な継承および海外流出や散逸を防ぎ保存活用するための制度
美術品を相続し、被相続人の美術館への寄託(所有権を残したまま美術館に預けること)を継続する場合、一定の要件を満たせば相続税の納税が猶予・免除となる。
80% 後継者の死亡、美術品の寄託先への寄贈など

令和8(2026)年度税制改正のおもな改正点

令和8年度税制改正により、各種制度において提出期限や適用期限の延長が行われました。

① 農地等の納税猶予制度

納税猶予中の農地等を収用交換等により譲渡した場合、利子税の全額を免除する措置の適用期限が以下表のとおり5年延長されました。

項目 改正前 改正後 変更点
収用交換等により譲渡した場合の利子税の免除制度 2026年3月31日まで 2031(令和13)年3月31日まで 5年延長
相続・贈与の適用期限 期限なし 変更なし

② 非上場株式等の納税猶予(特例措置)

特例措置を受けるのに必要な特例承継計画の提出期限が、2027年9月30日まで延長されました。ただし、実際の相続・贈与に適用できる期限(2027年12月31日)は据え置きとなっているため、猶予期間を活用した早期の着手が不可欠です。

なお、適用期限到来後のあり方については令和9年度税制改正で決定される予定です。

項目 改正前 改正後 変更点
特例承継計画の提出期限 2026年3月31日まで 2027年9月30日まで 1年6ヵ月延長
相続・贈与の適用期限 2027年12月末日まで 変更なし

③個人の事業用資産の納税猶予

個人事業承継計画の提出期限が2028年9月30日まで延長となりました。②と同様に、相続・贈与の適用期限(2028年12月31日)に変更はありませんでした。

なお、適用期限到来後のあり方については、令和9年度税制改正で決定される予定です。

項目 改正前 改正後 変更点
個人承継計画の提出期限 2026年3月31日まで 2028年9月30日まで 2年6ヵ月延長
相続・贈与の適用期限 2028年12月末日まで 変更なし
事業承継税制に係る特例承継計画の期限延長等(相続税・贈与税)

※経済産業省:令和8年度経済産業関係 税制改正について(概要)27ページより抜粋

④ 医療法人の出資持分の納税猶予

相続・贈与の適用期限が3年間延長され、2029年12月末日までとなりました。

項目 改正前 改正後 変更点
相続・贈与の適用期限 2026年12月末日まで 2029年12月末日まで 3年延長

贈与税から相続税への「猶予のバトンタッチ」の流れ

①農地等、②非上場株式等、③個人事業用資産の3つについては、生前贈与で受けた贈与税の猶予を、将来の相続税の猶予へ引き継ぐことができます。その基本的な手順を見ていきましょう。
手順は制度ごとに異なりますので、「参考サイト」にまとめた国税庁の各ページをあわせてご確認ください。

相続はタイミングを選べませんが、生前贈与であれば自分たちの望む時期に計画的な承継を進められるという大きなメリットがあります。

生前 相続発生時 ※贈与税の納税猶予期間中に限る
1:先代から後継者へ財産を贈与する
2:贈与税の申告期限までに「贈与税の納税猶予」の手続きを行い「贈与税」の納税を先送りする
3. 先代(贈与者)の死亡
4. 猶予されていた「贈与税」が免除される
5. 受贈財産を「相続財産」とみなし、他の相続財産と合算して「相続税」を計算する
6. 一定の要件を満たす場合は、相続税の申告期限までに受贈財産に対応する相続税について「相続税の納税猶予」の手続きを行い「相続税」納税の先送りをする

「延納」「物納」との違い~手元に納税資金がない場合しか使えない救済策

納税猶予・免除と混同されやすい制度として、相続税の一括納付が困難な際に用いられる「延納」や「物納」があります。

共通点もありますが、納税猶予・免除が、事業や財産の承継を支援する制度であるのに対し、延納・物納は「金銭納付が不可能な人」を救うための制度です。

原則として「本当に現金が手元にないこと」が前提となるため、「不要な土地を処分したいから物納する」「手元に現金を残したいから延納する」といった選択はできません。

原則 特則 特則
金銭一時納付 延納 物納
期限内に金銭で全額を納付することが困難な場合(相続税・贈与税)

※納付困難な金額を限度に分割納付(年賦)を行うことができる

延納によっても金銭で納付することが困難な場合(相続税のみ)

※納付困難な金額を限度に相続財産による納付ができる

おわりに

今回は、各所有財産別に「相続税の納税猶予・免除制度」の概要を解説しました。

本制度は農地や山林、美術品など対象が多岐にわたり、その背景には国の重要政策として事業や財産を守るという明確な目的が存在します。

「なぜ国が税金を猶予・免除してまで守ろうとしているのか」という制度の趣旨に目を向けてみると、税制への理解が深まります。

ただし、いざ制度を導入するとなると、適用要件や猶予の継続要件を保ち続けるためのハードルが非常に高い点に注意が必要です。適用後に要件から外れた場合には、納税猶予は打ち切られ、本税と利子税の金銭一括納付が求められます。

納税猶予が打ち切られる具体例

  • 定期的な「継続届出書」の提出がない場合
  • 農地等や非上場株式等、納税猶予の対象財産の譲渡や事業の廃止などを行った場合

相続対策を進める際は本制度だけに頼らず、小規模宅地等の特例や生前贈与、生命保険、非課税制度など、多角的な視点から検討することが欠かせません。

私たち辻・本郷 税理士法人では、財産の内容やご家族の状況を踏まえ、相続・事業承継に関するご相談を承っています。

農地や自社株など、売却による納税資金の確保が難しい財産をお持ちの方も、まずはお気軽にご相談ください。

執筆担当: 事業承継カンパニー 市川 園美

参考サイト・参考文献

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