クリニックの物価高・人手不足を乗り切る、コスト見直しと人材定着の実務
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近年、消費者物価指数(CPI)の上昇に伴い、クリニック経営を取り巻く固定費の増加が深刻な課題となっています。
さらに、看護職をはじめとする医療従事者の有効求人倍率は高水準で推移しており、「求人を出しても応募が来ない」「条件が合わず採用を見送る」といった声が寄せられています。
厳しい環境下だからこそ、自院の経費構造を正しく把握した上での「効果的なコスト削減」と、「人材定着・業務効率化」に向けた経営改善が不可欠です。
診療科ごとの経費構造を知る(コスト削減の第一歩)
効率的な経費削減を行うには、自院の診療科における経費の特徴(どの項目にコストがかかっているか)を把握することが第一歩です。
以下は、厚生労働省「第25回医療経済実態調査」に基づく診療科ごとの経費内訳データです。
| 診療科 | 給与費 (役員報酬除く) |
医薬品費 | 材料費 | 委託費 | 減価償却費 | その他費用 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 内科 | 38.8% | 20.2% | 4.1% | 4.2% | 6.8% | 26.1% |
| 小児科 | 38.3% | 28.1% | 1.3% | 2.3% | 6.0% | 24.3% |
| 眼科 | 38.3% | 9.0% | 8.0% | 7.4% | 9.9% | 27.4% |
| 皮膚科 | 41.3% | 13.3% | 1.6% | 3.4% | 8.0% | 32.3% |
| 整形外科 | 44.5% | 14.1% | 2.0% | 8.3% | 6.2% | 25.0% |
| 歯科 | 42.1% | 1.7% | 9.4% | 13.0% | 8.3% | 25.4% |
※出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」のデータを基に作成
診療科別の費用構造と見直しポイント
医薬品費率が高い診療科[内科・小児科等]
内科(20.2%)、小児科(28.1%)ともに医薬品費の比率が高いため、過剰在庫による廃棄ロスの削減や、卸会社との単価交渉・共同購入の導入が有効です。
材料費・委託費比率が高い診療科[歯科・整形外科・眼科等]
歯科クリニックでは委託費(13.0%)や材料費(9.4%)が大きな割合を占めます。外注技工費や各種検査・業務委託費において、相見積もりや契約内容の定期的な再検証が有効です。
給与費・その他費用(固定費)が高い診療科[整形外科・皮膚科等]
整形外科(44.5%)のようにスタッフ数の多い科は給与費の割合が高く、皮膚科(32.3%)は広告宣伝費やテナント料などの「その他費用」が高い傾向にあります。
高額な人材紹介料の抑制や、駅看板から費用対効果の高いWeb広告へのシフトがコスト適正化のカギとなります。
クリニックのコスト見直し6つの処方箋

1. 医薬品・医療材料の在庫見直し
2〜3ヵ月に1回の棚卸を習慣化し、翌日配送を前提とした在庫圧縮で廃棄ロスを防ぎます。
2. 外注検査費の再検証
集配条件等を確認し、他社との相見積もりにより市場価格に基づいた適正契約へ更新します。
3. 医療機器保守契約の最適化
過去のトラブル実績を振り返り、過剰なフルサポート契約を見直して標準プランへのグレードダウンを検討します。
4. 広告宣伝費の見直し
認知度が高まった開院3年以上のクリニックでは、アナログ広告削減を検討し、Googleマップ等を中心としたMEO対策などWebを活用した手法へ注力するのが効果的です。
5. 支払手数料・採用コストの見直し
高額な人材紹介会社への依存を減らし、自社Web採用強化や職場環境改善による離職防止で定着を図ります。
6. 保険内容の最適化
開院時の生命保険を経営実態に合わせて見直しつつ、サイバーリスクや休業補償など現代のリスクへの備えに切り替えます。
物価高騰時代のクリニックのコスト4分類
経費の見直しを行う際は、以下のように「削減・効率化・維持・投資」の4つの視点でコストを分類し、優先順位をつけて取り組むのが効果的です。
| コスト分類 | 対象となる費用・項目例 | 具体的なアクション |
|---|---|---|
| ①削減できる費用 | 不要な契約/未使用オプション/過剰在庫/重複サービス | 解約やグレードダウン・在庫圧縮・価格交渉 |
| ②効率化できる費用 | 電気・空調代/事務作業/予約・会計 | 省エネ推進・医療DX(自動精算機やWeb予約)の導入 |
| ③守るべき費用 | 必要な人件費/患者安全/感染対策/医療の質 | 適切な給与還元・安全対策費用の維持 |
| ④将来の削減につながる投資 | 省エネ設備/人材教育・定着施策 | 補助金活用設備投資・自社採用強化・職場環境改善 |
※出典:総務省統計局、日本看護協会、厚生労働省の公表資料等を基に作成
物価高騰と同時に進む人件費上昇と人手不足

クリニック経営において、物価高騰と並び大きな負担となっているのが「人件費の上昇」と「深刻な人手不足」です。
総務省統計局の消費者物価指数(CPI)データによると、2020年を100とした基準指数は2024年に108.5、2025年に111.9、2026年5月には113.5※1と高水準で推移しており、賃上げの流れが強まっています。
また、看護職の求人倍率は非常に高い水準が続いています。日本看護協会および厚生労働省のデータによると、看護職の求人数(約17.2万件)に対し求職者数(約6.8万件)は大幅に下回っており、有効求人倍率は2.51倍に達しています※2。
多くの院長先生から「求人を出しても応募がない」「条件が合わず採用を見送らざるを得ない」という声が上がっており、高額な紹介会社を利用することで支払手数料が増加し経営を圧迫する悪循環も発生しています。
※1 出典:総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」より作成
※2 出典:日本看護協会「看護職の求人・求職状況」および厚生労働省公表資料より作成
人手不足と人件費高騰に向けた経営上の視点
人手不足や人件費上昇の課題に対しては、単に求人条件を引き上げるだけでなく、財務・会計の観点から「仕組みづくり」と「原資の確保」を進めることが有効と考えられます。
具体的には、以下の4つのポイント(支払手数料の抑制、少人数運営の確立、定着率の向上、自治体支援策の活用)を参考に、自院の経営改善に取り組んでみてください。
自社Web採用の活用による「支払手数料」の抑制
自院ホームページ等での採用情報発信を充実させ直接応募比率を高めることで、経営を圧迫しやすい高額な採用紹介手数料などの固定費を抑制します。
医療DXによる「少人数運営」の確立
Web予約・自動精算機などを活用して事務作業を省力化し、限られたスタッフ数でも無理なく診療を回せる体制を整えます。
固定費削減で生んだ原資による「賃上げ・労働環境改善」
各種固定費の見直しで生み出した資金を、既存スタッフの適切な処遇改善(賃上げ)や職場環境整備に充てることで、離職防止(定着率向上)を図ります。
自治体による賃上げ・物価高騰支援策と情報収集のポイント
2026年度においては、物価高騰や医療従事者の処遇改善(賃上げ)を支援するため、国および各都道府県から「賃上げ・物価上昇対策支援金」などの補助事業が実施されています。
国および自治体の支援金・補助金施策の例
例えば、これまで国および自治体において、以下のような支援施策がありました。
- 物価・光熱費高騰対策支援金(電気・ガス代や診療資材等の価格高騰分に対する直接給付)
- 医療従事者の賃上げ・処遇改善支援事業(スタッフの賃上げに取り組むクリニックへの助成)
- 医療DX・省エネ設備導入補助金(自動精算機、オンライン資格確認や、省エネ設備更新等への補助)
今後の備えと情報収集の重要性
今後も補正予算や自治体の追加政策によって、類似の物価高騰対策支援金や省エネ設備導入・医療DX推進に関する新たな補助金が公募される可能性があります。
今後公募される支援施策を逃さず活用するためにも、自院が所在する都道府県の公式ホームページや都道府県医師会の会員向け通知などの情報発信を定期的にご確認いただき、最新情報を収集できるよう準備しておくことが大切です。
おわりに~将来への投資につながる持続可能な経営へ~
コスト削減は単なる目先の「節約」にとどまりません。放置されがちな固定費を現状に合わせて最適化し、そこで生み出された原資をスタッフの処遇改善や院内DXへの投資として還元していくことが、持続可能な経営基盤をつくります。
厳しい経営環境下でも安定経営を両立させるために、まずは手近でできる固定費の見直しや在庫圧縮、医療DX活用といった項目のチェックから始めてみてはいかがでしょうか。
私たち辻・本郷 税理士法人には、クリニックの税務会計に特化した専門部署・スタッフがおります。
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