高齢親の口座から引き出しは可能? 税務リスクになるNG行動 〜認知症前後で変わる財産管理

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高齢親の口座から引き出しは可能? 税務リスクになるNG行動とは〜認知症前後で変わる財産管理

「親の認知症が進行してきた」「いざという時の介護費用や、将来の相続が心配だ」。

そんな不安から、親御さんのキャッシュカードを預かり、「暗証番号がわかるから、今のうちに少しずつ自分の口座へお金を移しておこう」とお考えになる方は少なくありません。

ですが、親御さんに十分な判断能力(意思能力)がなくなった「後」に、ご家族が無断で口座からお金を引き出す行為は、絶対にしてはいけません

この記事では、親の預金口座からの引き出しに潜む恐ろしい税務・法務リスク(NG行動)と、親が元気なうちだからこそできる正しい財産管理・相続対策について、専門家が分かりやすく解説します。

認知症発症「後」のNG行動! 無断の引き出しは必ずバレる

認知症発症「後」のNG行動! 無断での引き出しは必ずバレる
Graphs / PIXTA(ピクスタ)

「無断引き出し」は民法・銀行契約上の違反行為

民法(第3条の2)では、「法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。」と定められています。

銀行の預金を引き出す行為は、法的には銀行に対する「預金払戻請求」という法律行為です。また、親が子にキャッシュカードを託して引き出しを頼む行為は「委任契約」です。親に意思能力がない以上、これらの行為はすべて根底から「無効」となります。

また、法令そのものではありませんが、銀行と結ばれている「預金規定」において、口座の利用は原則として名義人本人に限定されています。意思能力喪失により有効な委任ができない以上、銀行との契約違反にも該当します。

「バレないだろう」は通用しない! 税務調査の恐るべき実態

「親の死期が近いから、今のうちに現金を下ろしてタンスに隠しておけば、相続税がかからないのでは?」と考える方もいらっしゃるかと思います。これが、非常に危険です。

税務署は、引き出した金額が預金残高の何割を占めているか、どのような理由で使用したか、といったことをあらゆる客観的な事実から厳しく検討します

かつて行われた裁決では、相続直前に引き出された5,000万円について、「多額の現金をわざわざ病院に持ち込ませる必要性が乏しい」「亡くなるまでのわずか2日間に病室で全額を費消したとは通常考え難い」と判断されました。

参考:国税不服審判所「平成23年6月21日裁決

納税者側が「何に使ったか」を客観的証拠で証明できない以上、当該現金は相続財産(手許現金)であるとして、納税者側の主張は完全に退けられています。

「うちにはそんな多額の現金はないし…… 少しなら問題ないのでは?」と思われる方も、金額の過多に関わらず、無断での引き出しは税務署側に把握されることにご注意ください

「贈与」が無効に? 名義預金と「重加算税」のペナルティ

引き出した現金を子どもの口座に移した場合や、手元に隠した場合、税務調査において「贈与」とは認められません。なぜなら、民法上、意思能力のない状態での法律行為は「無効」とされるため、そもそも贈与契約自体が成立しないのです

これらの資金は「親の財産(名義預金、または手許現金)」として相続税の課税対象となります。さらに、意図的に財産を隠したとみなされれば、最大40%の「重加算税」という極めて重いペナルティが課されます。

資産は原則「凍結」になる? 例外的な引き出しにも厳しい条件が

意思能力を喪失した「後」は、ご家族であっても親の不動産を売ったり、定期預金を解約したりすることは原則としてできません。基本的には家庭裁判所で「成年後見人」を選任し、厳格な管理のもとで財産を動かすことになります。

本人の医療費など「切迫した費用」なら引き出せる銀行もあるけれど……

ただし近年は、全国銀行協会の指針により、本人の医療費など「切迫した費用」に限り、例外的に家族による引き出しに応じる銀行も出てきました。

しかし、ここで注意が必要です。この特例で引き出せたとしても、税務上のリスクが消えるわけではありません。

先述の通り、親が認知症になった後では法的に「贈与」をすることは不可能です。つまり、引き出したお金の使い道(領収書など)をきっちり証明できない場合、そのお金は「今も親の財産(手許現金や、親から子への債権)」のままであるとみなされ、すべて亡くなった時の「相続財産」としてカウントされてしまいます

申告から漏れれば、当然重いペナルティの対象となります。

引き出したお金の使い道 税務上の取り扱い 発生するリスク・ペナルティ
子や孫の口座へ移動 贈与は無効(親の財産のまま) 相続税の課税対象(名義預金)
手元に隠す(タンス預金化) 親の財産のまま(手許現金) 相続税の課税対象 + 悪質な場合は重加算税(最大40%)
本人の医療費・介護費 親のための支出(財産から減少) 領収書等の客観的証拠がない場合、相続財産(手許現金等)とみなされる

親が元気な「前」ならできる! 正しい2つの生前対策

親が元気な「前」ならできる! 正しい2つの生前対策
Luce / PIXTA(ピクスタ)

前章のような悲劇を防ぐためには、親御さんが健康で、明確な意思能力をお持ちの「前(今)」から動き出すことが唯一の解決策です。

①「生前贈与」の実行

親御さんに意思能力があるうちであれば、暦年贈与(年間110万円の非課税枠)などを活用し、堂々と次世代へ財産を移転できます。

重要なのは、贈与の「実態」が客観的に認められることです。例えば、贈与の都度「贈与契約書」を作成し、銀行振込で履歴を残すこと等が挙げられます。

ただし、税制改正により、段階的に「亡くなる前7年以内」に行われた贈与は相続財産に足し戻される厳しいルールへと変わりました。
経過措置があり、完全に7年分が加算対象となるのは令和13(2031)年以降の相続からです。

将来の相続税を減らすためには、親御さんが元気な今のうちから「1年でも早く」贈与をスタートさせることが鉄則です

②財産凍結を防ぐ切り札「家族信託(民事信託)」

もし親御さんが「今は元気だが、将来の認知症による資産凍結が怖い」とお考えなら、「家族信託」が最適です。
この制度は、親御さんが元気なうちに信頼できるご家族(お子様など)に預金や不動産の管理権限を託すという契約です。

これを結んでおけば、万が一親御さんが認知症になっても資産は凍結されず、託されたお子様の権限で、親の介護費用としての引き出しや実家の売却をスムーズに行うことができます。

対策 おもな目的 認知症発症後の効果 注意点
生前贈与 将来の相続税を減らす(財産の移転) 発症後は原則、贈与は不可 亡くなる前7年以内の贈与は持ち戻しの対象となる
家族信託 将来の財産凍結を防ぐ(管理権の委任) 発症後も、子が親のために実家の売却や預金管理を継続できる 節税(相続税の軽減)そのものを直接の目的とするものではない

辻・本郷 税理士法人が提供できるご支援

認知症リスクを見据えた相続対策は、「税務(税金を減らす)」と「法務(財産凍結を防ぐ)」の両輪で進める必要があります。私たち辻・本郷 税理士法人では、この複雑な課題に対し、ワンストップで最適な解決策をご提供いたします。

[発症前の方へ]税務調査に負けない「生前対策」の立案

国内トップクラスの相続税申告実績を持つ当法人だからこそ、「税務署がどこを見るか」を熟知しています。名義預金と疑われないための正しい贈与契約書の作成から、実行のサポートまで、安心できる生前贈与をご提案します。

[発症前の方へ]法務と税務を統合した「家族信託」の組成サポート

家族信託は非常に強力な制度ですが、契約書の設計や税務上の評価が複雑です。当法人の専門チームおよび提携する司法書士・弁護士と緊密に連携し、ご家族に最適な信託契約の設計・登記・税務申告までシームレスにサポートいたします。

[すでに発症されている方へ]安全な財産保全と「成年後見制度」等のサポート

「親がすでに認知症になってしまったから、もう手遅れだ……」と諦める必要はありません。
節税対策は難しくとも、ご家族が意図せず「名義預金」や「無断引き出し」の重いペナルティを背負わないよう、正しい財産の守り方をアドバイスいたします。

また、必要に応じて提携専門家を通じた成年後見制度の活用サポートや、将来の相続税申告で介護費用を正しく差し引く(債務控除)ための証拠保全まで、徹底的に伴走いたします。

おわりに ~ご家族だけで悩まず、まずは専門家へ相談を

親御さんがご自身の言葉で想いを伝えられる「前」であれば、家族信託や生前贈与など、取り得る選択肢は豊富にあります。

一方で、すでに認知症の症状が見られる「後」であっても、ご家族だけで自己流の財産管理を続けることは、税務調査リスクやご親族間のトラブルを招く非常に危険な行為です。

「うちの場合はまだ間に合う?」「すでに発症しているけれど、今から家族が気をつけるべきことは?」
少しでも不安を感じられましたら、状況が悪化する前に、ぜひ辻・本郷 税理士法人へご相談ください。

当法人では、豊富な経験を持つ専門家があなたのご家族の状況に合わせた最適な道しるべをご提示し、大切な財産と未来をお守りします。

執筆担当: 東京ミッドタウン八重洲事務所 プライベートウェルスマネジメント部 道見 舞美

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