業績悪化により役員報酬を減額する際の注意点 ~税務上認められる「著しい悪化」とは?
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「今期は予想以上に業績が厳しいから、役員報酬を少し減らして会社のキャッシュを残そう」
経営を行っているとこのような局面に直面することがあるかもしれません。
しかし、会社の利益調整に利用されるのを防ぐため、年度の途中で役員報酬を変更するには税法上、非常に厳しいルールが設けられています。要件を満たさないまま減額してしまうと、思わぬ税負担(損金不算入)が生じるリスクもあります。
今回は、期中での減額が認められる「業績悪化事由」について、どのようなケースが該当するのか、裁判例や実務上の注意点を交えて解説します。
業績悪化なら役員報酬の下方修正は可能? 期中改定に付された厳しい条件
役員給与のうち定期同額給与に該当すれば、不相当に高額でなければその額は損金に算入できます。
定期同額給与とは、支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものをいいます。これに準ずるものの一つとして「業績悪化事由による改定」が含まれます※。
役員給与の増額・減額が法人の利益調整に使われないようにするために、事業年度途中の改定には厳しい条件が付されているのです。
※ 法人税法第34条第1項第1号、法人税法施行令第69条第1項・第2号、法人税基本通達9-2-11・9-2-12
業績悪化事由による改定とは
業績悪化事由による改定とは、どういった内容なのでしょうか。
法令では「当該事業年度において当該内国法人の経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由によりされた定期給与の額の改定」※1と規定されています。
また、規定には「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」という条件が付されています。
「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」とは、経営状況が著しく悪化したことなど、やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいいます。
法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは、これに含まれないと示されています※2。
※1 法人税法施行令第69条第1項第1号ハ
※2 法人税基本通達9-2-13
業績悪化改定事由による改定に該当する場合/該当しない場合とは

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次のような場合の減額改定は、通常、業績悪化改定事由による改定に該当するものと考えられます。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
※国税庁「役員給与に関するQ&A」平成20年12月(平成24年4月改訂)より
| 業績悪化事由に「該当する」ケース [損金算入可] |
業績悪化事由に「該当しない」ケース [損金不算入] |
|---|---|
| 経営上の責任による減額 株主との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない |
一時的な資金繰りの都合 |
| 銀行とのリスケジュール協議による減額 例:借入金返済の見直しに伴うやむを得ない減額 |
単なる業績目標値の未達 |
| 信用維持のための経営改善計画による減額 取引先等への信用確保のための計画的な減額 |
客観的な激変を伴わない、わずかな業績低下 例:経常利益が対前年比で6%減少した程度など |
具体的な数値基準がない「著しい悪化」とはどんな程度か?
しかし、「著しい悪化」について具体的な数値基準が明らかにされていないこともあり、役員給与減額後に課税当局から否認されてしまうリスクがあります。
否認されると、改定前後の支給額のうち「いずれか少ない方の金額(今回の場合は減額後の金額)」が定期同額給与の額とみなされ、それを超える部分(減額前の支給額との差額など)が損金不算入となります。
次に、否認された例をご紹介します。
経常利益が対前年比で6%減少……でも「経営状況の著しい悪化等には該当しない」?
業績悪化事由に該当しないとして否認された事案に、東京地裁平成26年5月30日判決(高裁への上告棄却、最高裁不受理)、国税不服審判所平成23年1月25日裁決などが挙げられます。
国税不服審判所の裁決では、経常利益が対前年比で6%減少したことを理由として代表取締役の役員給与を減額したところ、「経営状況の著しい悪化等には該当しない」と判断されています。
業績悪化改定事由の要件緩和に向けての動き

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現状、業績悪化要件による改定の課税リスクは低くありません。ハードルを下げて欲しいと望んでいる会社等も多いと思われます。
そこで日本税理士会連合会から「業績悪化改定事由の要件を緩和すること」が令和8年度税制改正の要望の一つとして提出されましたが、その後公表された税制改正に反映されませんでした。
以下にその内容を引用します。
「令和8年度税制改正に関する建議書」令和7年6月25日 日本税理士会連合会※
〇 業績悪化改定事由の要件を緩和すること。
業績悪化時の役員給与改定の要件について、経営状況の悪化が著しいという水準でなくとも定期同額給与の下方修正を行うことは、企業が財務体質の健全性を維持するためにむしろ進んで行うべきことと考えられるが、現行の取扱いがその減額実行の障壁となっている場合がある。
そのため、役員給与の減額改定が財務の健全性を維持する目的で赤字の回避のために行われたような場合は、恣意的な課税所得の調整である場合を除き、損金算入を認めるべきである。
※日本税理士会連合会「令和8年度税制改正に関する建議書」より
要件緩和は実現するか? 財務省主税局の考えは
税理士会連合会では、令和7年時においても同様の意見書を提出しており、実現に向けて今後も継続し訴えていくのではないかと思われます。
しかし、財務省主税局では税制改正の必要なしと考えていると思われます。
業績悪化による役員給与の減額改定は、例外として定期同額給与の範囲に含められているものです。
法令に既定されている「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」については法人税基本通達および役員給与に関するQ&Aに例示列挙されています。
また、役員給与に関するQ&Aに例示列挙された3事例以外であっても、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情があるときには、その客観的な事情を具体的に説明できれば、定期同額給与に該当すると考えられます※。
※参考:武田昌輔 編著『DHCコンメンタール 法人税法』第3巻第4款第3目(第一法規)p.2161の24-2161の25
おわりに
事業年度途中での役員報酬の改定は、限られた要件に該当する場合のみ認められます。毎期、法令で定められた期間で役員給与をできるだけ適正な額に定めることをお勧めします。
万が一、判断に迷う点や不安な点があれば、顧問税理士にご相談いただくことをお勧めします。
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[補足]法人税法上の役員とは
会社法では取締役、会計参与、監査役の3役が役員として定められていますが、法人税法上の役員には、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人、更にみなし役員が規定されています※1。
みなし役員とは、次の①、②のいずれかに該当する者のことを指します。
- ① 法人の使用人以外の者で実質的に法人の経営に従事している者(相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められる者)※2
- ② 同族会社の使用人のうち、一定の株式等の所有権割合の要件のすべてを満たす特定株主(特定役員)
※1 法人税法第2条第15号、法人税法施行令第7条による
※2 法人税基本通達9-2-1
参考サイト・参考文献
- 【国税庁】役員給与に関するQ&A 平成20年12月(平成24年4月改訂)
- 【国税庁】税務訴訟資料 第264号-101(順号12482)
- 【国税不服審判所】平成23年1月25日裁決事例
- 【日本税理士会連合会】令和8年度税制改正に関する建議書
- 【日本経済新聞】2025年11月3日付記事「役員給与、損金の範囲は減額要件、業績「著しい悪化」巡り議論」
- 【第一法規】武田昌輔 編著『DHCコンメンタール 法人税法』第3巻第4款第3目(第一法規)p.2161の24-2161の25
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