事前交付型リストリクテッド・ストック(RS)導入の基本と、経理が知っておきたい税務上の留意点
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近年、役員や従業員へのインセンティブとして、金銭ではなく自社の株式を交付する「株式報酬制度」を導入する企業が定着しています。
その背景には、会社の成長と自己の利益を連動させることで、従業員に株主と同じ目線を持たせるねらいがあります。
なかでも、一定期間継続して勤務することなどを条件に譲渡制限が解除される譲渡制限付株式(Restricted Stock:リストリクテッド・ストック)は、中長期的な企業価値の向上と人材の流出を防ぐことが期待できます。
今回は、近年多くの会社で導入が進められている事前交付型リストリクテッド・ストック(以下、事前交付型RS)の概要と税務上の取り扱いについて解説します。
事前交付型RSとは
株式報酬にはいくつもの形態があり、その組み合わせに応じて会計上・税務上の取り扱いが変わります。
| 形態 | 説明 | |
|---|---|---|
| 交付時期 | 事前交付型 | 対象勤務期間の開始後速やかに譲渡制限付株式の発行等が行われ、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除されるが、権利確定条件が達成されない場合には法人が無償で株式を取得(没収)するもの |
| 事後交付型 | 権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われるもの。 この交付された株式に、さらに譲渡制限が付される場合もある |
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| 交付(譲渡制限解除)条件 | 勤務条件 | 一定期間の勤務や職務執行に基づいて株式の交付や譲渡制限の解除をするもの |
| 業績条件 | 一定の業績(株価を含む)の達成又は不達成に基づいて株式の交付や譲渡制限の解除をするもの。この性質上、交付する株式数が変動する制度設計をすることがある | |
| 払込資産 | 現物出資型 | 役員や従業員の役務の提供に対して金銭報酬債権を給付し、その金銭報酬債権を法人に現物出資させることで株式を交付するもの |
| 無償交付型 | 役員に対して無償で株式を交付するもの。 現在、無償交付型は上場企業の役員についてのみ認められている(会社法第202条の2) |
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「事前交付型RS」は、実務家や文献によって異なる定義がされていることがありますが、ここでは経済産業省が公表している『「攻めの経営」を促す役員報酬 ~企業の持続的成長のための インセンティブプラン導入の手引~』のp.37「本Q&Aにおける株式報酬プラン名の定義」を参考に、事前交付型であり業績によって制限解除する株式数が変わらないものを指すこととします。
また、払込資産については、実務で広く採用されている現物出資型であることを前提に解説していきます。
事前交付型RSの税務上の取り扱い

事前交付型RSは、法律上の区分としては所得税法と法人税法で定める「特定譲渡制限付株式」として取り扱われます。
特定譲渡制限付株式は通常の給与と異なり、個人への所得税が課税されるタイミングや、法人での損金算入されるタイミングについて、特別な取り扱いが定められています。
特定譲渡制限付株式とは
特定譲渡制限付株式とは、下記の要件を満たす株式とされています(所得税法施行令第84条、法人税法第54条、法人税法施行令第111条の2)。
(1)一定期間の譲渡制限が設けられていること
(2)次のいずれかの事由により、法人がその株式を無償で取得(没収)することが定められていること。
① 株式の交付を受けた従業員等が譲渡制限期間中に退職したこと等
② 法人の業績があらかじめ定めた基準に達しないこと等
(3)役務の提供の対価として生ずる債権の給付と引換えに交付されるものであること等
所得税の課税関係
特定譲渡制限付株式は、交付後すぐには譲渡できないうえに、場合によっては没収される可能性がある点に特徴があります。そのため、交付のタイミングで課税することは不適切であると考えられています。
そこで、所得税法では、特定譲渡制限付株式が交付された年ではなく、譲渡制限が解除された年に給与所得または退職所得として課税することとしています(所得税基本通達23~35共-5の3)。
なお、給与所得または退職所得の金額の計算上、収入金額に算入する金額は、その株式の譲渡制限解除時の時価で計算されます(所得税法施行令第84条)。
また、法人側の事務手続き上、譲渡制限解除時に源泉徴収しなければならないことに注意が必要です。
源泉徴収税額を現金で徴収するなど、実務上の取り扱いを事前に取り決めておきましょう。
法人の課税関係
従業員の場合
従業員に対する特定譲渡制限付株式に関して、法人の損金の額に算入されるのは、譲渡制限が解除された事業年度になります。法人による無償取得(没収)があった場合には、その株式に関しては損金の額に算入されないため注意しましょう(法人税法第54条)。
なお、損金の額に算入する金額は、従業員から現物出資された債権の額となります。債権の額は、株式交付を決定した時の直前の価額と一致するように制度設計するのが一般的です。
役員の場合
上記の従業員の取り扱いに加えて、役員に対する特定譲渡制限付株式に関して損金の額に算入するためには、その株式が上場株式であり、かつ、事前確定届出給与として次のいずれかの場合に該当する必要があります。(法人税法第34条第1項第2号)
① 定時株主総会(役員の職務執行開始) から1月を経過する日までに株式付与の決議をし、その決議の日から1月を経過する日までに株式を付与する場合。この場合は、届出書の提出は不要となります。(法人税法施行令第69条第3項)
② ①以外の場合には、定時株主総会(役員の職務執行開始)から1月を経過する日などの所定の日までに、税務署長に事前確定届出給与に関する届出書を提出する必要があります。(法人税法施行令第69条第4項)
事前交付型RSの実務上の注意
一例として、特定譲渡制限付株式の交付から制限解除までは次のような処理が行われます。
【前提】発行価格:一人当たり300、対象者:従業員2名、譲渡制限期間:3年
| 事業年度 | 計上事由 | 会計仕訳 | 税務仕訳 | 税務調整(別表四) |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 期首に交付 | 前払費用 600/資本金 600 | 前払費用 600/資本金等の額 600 | - |
| 費用計上 | 株式報酬費用 200/前払費用 200 | 仕訳なし | 株式報酬費用否認 200 (加算・留保) |
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| 2年目 | 期首に1名が早期退職(没収) | 損失 200/前払費用 200 ※1名分の前払費用の帳簿残高 |
利益積立金額 300/前払費用 300 | 前払費用消滅損否認 300 (加算・社外) 前払費用消滅損 100 (減算・留保) |
| 費用計上 | 株式報酬費用 100/前払費用 100 | 仕訳なし | 株式報酬費用否認 100 (加算・留保) |
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| 3年目 | 費用計上 | 株式報酬費用 100/前払費用 100 | 仕訳なし | 株式報酬費用否認 100 (加算・留保) |
| 制限解除 | 仕訳なし | 株式報酬費用 300/前払費用 300 | 株式報酬費用認容 300 (減算・留保) |
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上記の通り、会計と税務は一致しないため、法人税申告書で税務調整を行う必要があります。
注意すべきは、残高試算表を見ただけでは法人税申告書に記載する金額を把握することができないことです。税理士に相談のうえで適切な管理表を作成するようにしましょう。
また、法人税申告書には譲渡制限付株式に関する明細書(別表十四(三))を添付することを忘れないようにしましょう。
おわりに
制度導入の際には、各社の状況・インセンティブに対する方針に応じた制度設計や要件充足について検討し、適切な事務手続きを行う必要があります。
導入をご検討の際は、辻・本郷 税理士法人へお気軽にお問い合わせください。
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